失敗する怖さが仕事を面白くする
「イラストレーターなんでおかしいんですが、絵を描くことが自分の中でブームなんですよね。今自宅の近くに新しいアトリエを準備しているんです。そこはかつてアメリカ軍の将校さんが住んでいた平屋で、築60年になるようなぼろい家だったんですが、仕事をするための空間に改装しているんです。やっぱり大きな絵が描きたいんですよね。そうすると広いところじゃないとできなくって。それにやっぱり新しい環境だし、ここで音楽聞きながら絵を描いているのが一番面白いですね」と40年絵を描いてきたイラストレーターが、まだ絵を描きたいと笑う。
松下さんの仕事も今はデジタルが欠かせなくなっている。松下さんが鉛筆で緻密な下絵を描いた後は、全てデジタルの仕事だ。簡単に言うと、下絵をスキャニングしてデータ化し、パーツ毎にパソコンで色をつけていくことでイラストは完成する。「私は色の指示をして、パソコンでの色つけはスタッフにやってもらうのですが、正直あまり興味がないんです。デジタルってスリリングじゃないんですよ。色をつけて気に入らなかったらクリック一つで変更することができる。つまり失敗がない。そんなの面白くないですよね。もちろん、便利だし、綺麗な色ができますし、今までできなかったような大きなサイズにも簡単に出力できる。複製もできるから、多くの人に見てもらえる。私はその恩恵を随分受けてきましたが、でも、自分でしようとは思えないんです」
それはエアブラシでイラストを描いていたアナログ時代の感触や充実感が残っているからだろう。「横田基地のアトリエにしても、子どもの頃に体験した米軍基地での経験が大きくって、そこに戻っていった感じです。絵についても同じで、基本に戻ると言いますか、絵も鉛筆だけで完成形まで持って行ったり、大きな絵を描きたいと思っていたり。アトリエはもう少し整理して、もっと描ける環境を作れば、来年の今ころには発表できるかな、と思っています」
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