“移住フェア”のスタッフとして
「ようこそお越しくださいました」
私を迎えてくれたとき、彼女は青いハッピを羽織っていた。額は思い切り丸出しにして、肩までに伸ばした髪は後ろできっちりと束ねている。
この日、彼女は有楽町で行われた「移住フェア」のスタッフの一人として“県”から上京していた。
「来場者は、まあぼちぼちですね。ひと月前に、“全国移住フェア”を行ったときにはもっとおおぜい来ましたから」
小柄な体に大きな身振りを交えながら、表情豊かに話す。その姿は、いかにもエネルギッシュで、たくましい女性のようにも見えたのだけど、私に向ける包み込むように温かい眼差しからは、彼女の優しい人柄も感じられた。
夕方までお客様対応があるという彼女とは、仕事終わりに改めて約束させていただいて、私は会場を後にした。
フロアには、リタイア世代のご夫婦連れや30歳前後の若いカップルに交じり、3、40代と思しき男性や女性一人客もちらほらと見られた。
画像:iStock
40代お一人様女子の移住
「移住を決めた理由ですよね……不思議なんですが、その町にはなぜか“受け入れられている”と感じたんですよね」
フェア終了後に、近くの喫茶店で対面した彼女は、ロングセーターにタイトなデニムと黒いミニブーツを履いていて、今度は都会のキャリアウーマン風に見えた。
先ほどの天真爛漫な様子とは打って変わって、言葉を選びながらていねいに話す。
「あの県は、住んでいる人たちが本当にあったかいんですよ。都会にいるときに感じられなかった“つながり”を強く感じて、思い切って勤めていた会社を辞めました」
カフェオレのカップを手に取ると、当時を思い出したのか、ふいに遠くを見つめた。