タイが出来るだけ早く民主主義に立ち戻ることが望ましいが、そのための時刻表の中核は新憲法の承認ではなく国王の死去にある。このことは米国とタイの同盟の重要性を認識することを必要とする。麻薬撲滅、テロ対策、核不拡散、災害支援など米国はタイと協力する高い能力を有する。新たな緊急事態に備えて、最悪のケースをいえばタイと共に戦ったベトナムや朝鮮戦争の規模の地域紛争に備えて、この能力を発展させるべきである。
タイが民主主義に回帰することを熱望するあまり、我々はタイの歴史的な移行期とその予感がタイ全土に生んでいる震動を軽くあしらっている。その過程で我々は大陸東南アジアの最も重要なプレイヤーとの同盟を台なしにしている。民主主義への回帰に焦点を当てつつも、米国はタイが敬愛する国王を欠いた将来と折り合いをつける余裕を与えてやらねばならない、と論じています。
出典:Walter Lohman,‘Need for long-term thinking in US-Thai Alliance’(Heritage Foundation, October 5, 2015)
http://www.heritage.org/research/commentary/2015/10/need-for-long-term-thinking-in-us-thai-alliance
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国王の死は民政移管をもたらすのか
この論説はプミポン国王の死去がもたらすタイ社会の動揺を軽視すべきでなく、この難しい移行期を無事乗り切ることをプラユット政権は決意していると指摘しています。そしてタイとの同盟関係の重要性に鑑みれば、長期的思考を必要としており、米国は民政移管ばかりを喧しく言い立てるのではなく、タイがプミポン国王を欠いた将来と折り合いをつけられるよう助力すべきことを説いています。的を射た論説だと思います。
論説は、軍部が国王の死去に際して状況をコントロールしたいと思っていることは明白だと指摘しています。恐らく正しい観測でしょう。しかし、民政移管のタイムテーブルの中核は国王の死去にあるといい、恰も民政移管が国王死去のタイミング如何による(国王死去の動揺が収まるまでは民政移管はない)かのように言うのは言い過ぎでしょう。
立憲君主制の下、国王を国の安定の最後の拠り所とする「国のかたち」が作られたのはプミポン国王の治世約70年間のことです。安定の柱としての国王の機能は近年揺らいでいるとはいえ(今年88歳、王妃とともに入院中)、その死は衝撃的でしょう。後継者である皇太子が国民の敬愛を十分には獲得できていないだけに、国の安定、王制の先行きに不安感が漂います。日米は、タイの安定を支え続けるという姿勢を鮮明にすることが大切でしょう。
なお、筆者はヘルムズ元上院議員、マケイン上院議員の補佐官を務めたことのある共和党系の人物で、この論評はオバマ政権に批判的な傾向があります。タイの軍事政権への対応において、ブッシュとオバマ政権とでどれ程の差があるのかは、検証の要があるでしょう。
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