2024年11月21日(木)

Wedge REPORT

2015年11月15日

「地方で一旗あげてやる」という覚悟が必要です

 「東京で一旗あげてやる、という気持ちと同じように、地方で一旗あげてやる、という覚悟がない場合、農村地域で農産物をつくるような生活を選択すべきではないと思います」

 そう語るのは、縁もゆかりもなかった栃木県宇都宮市でイチゴ農園のハート&ベリーを営む野口圭吾さん(53)だ。野口さんのイチゴは、帝国ホテルや三越伊勢丹に出荷されるなど、高い評価を受けている。

野口圭吾さん

 野口さんは東京農業大学卒業後、システムエンジニアの職に就いた。年収は1000万円を超えるなど、不自由のない暮らしをしていたが、「このままでは死ぬときに後悔する」と、妻を3年かけて説得。「幼いころからの夢だった」という農業に携わることになった。36歳のときに宇都宮へ移ったが、それからは苦労の連続だった。

 「『新規就農者に100万円支給!』といった類いの広告をよく見かけますよね。今でこそちゃんと支払われるようですが、一昔前まで県や市、農業委員会や農協などをたらい回しにされて、結局1円も支払われなかった、ということをよく耳にしました。私自身たらい回しにされ、1円も受け取っていません」と振り返る。

 「よそ者」の野口さんは、移住当初なかなか土地を貸してもらえなかったという。「田舎の人は見ず知らずの人に、先祖伝来の土地を簡単には貸してくれません。私の場合、何とか土地を確保しましたが、ちょっと儲かり始めたらすぐに『契約見直し』を告げられ、価格を吊り上げられました」。結局、二度ほど農園の場所を移したという。

 「はじめから農協組合員になるつもりはなかったのですが、『郷に入れば郷に従え』だよ、と地元の有力者である町議会議員に説得され、仕方なく加入したのです」

 実際に加入してみると、不満がたまることの連続だった。まず、農協以外に販売することが許されなかった。出荷用の段ボールやパックも、割高の農協から購入しなければならないうえ、演歌歌手のコンサートチケット購入を迫られることもあった。

 「何より味にこだわり丹精込めてつくったイチゴが、他のイチゴと同価格で買い取られることに納得がいかなかった」

 農協組合員を脱退した後も、「嫌がらせ」は続いた。地元の百貨店に卸したイチゴをみた農協が百貨店側へクレームをつけたという。野口さんは今でも出荷用の段ボールを、しがらみのない県外の業者から購入している。

 周囲の大多数の農家は農協組合員だ。「なぜ脱退しないんですか?」と地元農家に尋ねると、「理不尽だと思うこともあるけど、村八分になりたくないからね」と答えたという。

 「地方といっても都市部に住むのであれば、東京と大して変わらないと思いますが、農村地域に入って農産物をつくるのであれば、相当な覚悟が必要です。地域の草刈り、公民館の寄合、消防団もあります」

 こうした地域活動への参加は必須だ。活動に付き合えない人は、地域の一員としてみられない。

 「人付き合いが苦手な人はやっていけません。会社や上司がいやだから、地方でのんびり農業でもして暮らしたい、といった安易な考えの人は、間違いなく失敗します」

 自身の移住は正解だったと語る野口さんだが、「相当の覚悟が必要」と繰り返す姿が印象に残った。

  
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