2024年11月24日(日)

Wedge REPORT

2015年11月15日

ニーズを汲み取った三方よしの事業モデル

 一方、高齢者住宅「ゆいま~る」シリーズを展開するコミュニティネット(東京都千代田区)の事業手法が注目を集めている。同社は保養地や団地において自立型のサービス付き高齢者住宅を拠点にしたコミュニティ作りなどを手がける。「ゆいま~る那須」(栃木県那須町)は、別荘地の人口流出を食い止めてほしいという地元のニーズを汲んで事業化され、現在76人(平均年齢72歳)が暮らすコミュニティだ。

ゆいまーる那須

 更地の段階から入居希望者を募り、現地見学会や勉強会を開催しながら、自分たちの理想の暮らしを形に落とし込んでいった。街づくりのプロセスに参画することで、入居希望者は街への愛着と入居希望者同士の関係を深めていき、着工時(1期17戸)には全ての入居が決まっていた。第1世代が築いた理念に共感する人が後を追って入ってきており入居率は9割を超える。地域には30人の雇用も生まれた。

 ちなみに1人で入居する場合は60歳以上が要件で、入居費用は家賃の一括前払いで約1200万~約2500万円、追加家賃なしで生涯住むことができる。毎月かかる費用は共益費8000円にハウス内でのサポート費が約3万円。土地建物は同社が所有するため、居住者が亡くなっても相続はされない。次の入居時には新たな家賃収入が入ってくるため、資本の回転も早い。

 また、居住者には買い物代行や掃除など暮らしのサポート役として参画してもらい、対価(ハウス内で使える通貨)と生きがいを得る仕組みも取り入れられている。結果、スタッフの人件費も抑えられる。

 介護事業も地元企業との連携を優先することで、「地元との摩擦を起こさず、介護報酬に経営が左右される心配もなくなる」(高橋英與社長)という。
日本版CCRC構想の実現には、居住者、事業者、地元にとって三方よしの事業モデルの構築も不可欠だ。

インタビュー:松田智生 (三菱総合研究所プラチナ社会研究センター主席研究員)

 CCRCと聞くと「姥捨て」の印象を抱く人がいる。おそらく国や東京が主語の話を耳にしてきたのだと思う。供給側の論理に聞こえるからだ。だが地方や移住者を主語にすれば本来、前向きな話だ。移住したアクティブシニアに話を聞くと、元気なうちに地方に行くことで人生を2度楽しむことは可能なのだと実感する。年賀状に書きたくなる、人に自慢したくなるユーザー目線のストーリーを伝えることが必要と感じる。

松田智生氏

 首都圏から元気なシニアが集まれば、米国の例を踏まえると、新しいビジネスが地方に生まれる可能性がある。たとえば、シニアからの相談に応じるアクティビティプランナーや、健康的な生活を分析・提案する健康データアナリストだ。将来の介護が不要な環境を作れば、シニアはコストではなく資産になる。

 では、どうすればそうした理想的なCCRCが実現できるのか。まず国はいくつかの規制緩和や税制優遇策を講じる必要があるだろう。たとえば首都圏在住の地方移住希望者は圧倒的に男性が多く、子供が巣立った後の自宅をもてあます夫婦も少なくない。自宅の分筆・売却における不動産取得税、売却税等の減税があれば、妻は首都圏、夫は単身移住といった「ハッピー別居」の選択肢を選ぶことが可能になる。

 移住先が粗悪なCCRC、といったことがないように、事業主体の財務状況の開示や施設・設備の一定水準を担保する米国並みの認証制度も必要だ。

 一方、受け入れ側の地方はアッパー層のアクティブシニアに選ばれるために移住のハードルをできるだけ高くすべきだ。例えば、地域の大学のキャリアアドバイザーになることを移住の条件にするなど、具体的にどんな人材が必要か情報発信しよう。

 移住地はすぐに選べない。首都圏の企業にもぜひ30、40代の若いうちから社員にセカンドライフを考えるための休暇やセミナーの機会を与えてほしい。

  
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