2024年11月24日(日)

Wedge REPORT

2015年11月15日

 民間有識者からなる日本創成会議(座長・増田寛也元総務相)が6月に発表した「東京圏高齢化危機回避戦略」。そのなかで、医療介護の受け入れ余力がある自治体への高齢者の移住を提言し、大きな反響を呼んだのは記憶に新しい。

 政府は首都圏の高齢者の地方移住を促進するべく「日本版CCRC構想」を主導し、目下、全国の200を超える自治体で練られている。同構想では、地方移住した高齢者がアクティブで健康な生活を送って、その地域で継続的に医療介護サービスを受けられる街づくりを目指す。そんなシニア中心の街づくりの成否を探りに、日本でもっとも古いシニアタウンと言われる街を訪れた。

 福岡空港から車で1時間弱、筑後平野の田園風景を一望できる約38万坪の丘陵地に「美奈宜の杜」(福岡県朝倉市)の街は広がる。1996年からシニアタウンとして宅地を分譲し、街には332世帯、652人が暮らす。65歳以上の高齢者が55%を占め、住民の3人に1人が首都圏や関西圏など県外からの移住者だ。

美奈宜の杜のサークル活動

 開発を手掛ける不動産開発会社「西日本ビル」(福岡市)は、街の運営・管理にも携わり、住民の生活支援を専門に行うライフパートナーも常駐させる。住民は土地、住宅の購入代金とは別に、1世帯当たり約50万円の施設負担金を支払い、街の施設の生涯にわたる利用権を得る。また、毎月1万円の管理費を納め、24時間警備や住民サービスを享受する。

 住民が自主運営する活発なサークル活動がこの街の特色だ。スポーツ・文化系合わせて約35種類あり、住民同士の交流や健康を促進している。2年前に千葉県から越してきた前田健一さん(62)は、週3回テニスで汗を流し、夫婦でトレッキングも楽しんでいる。「ここの住民は人生を楽しもうとする意識が高い。現役時の会社名や肩書などにはお互い触れず、対等な関係で接している」と街にすっかり溶け込んだ様子だ。街には新移住者が早く馴染めるように、1年目に夏祭りなど3大イベントいずれかの実行委員を任せるルールがある。

 住民相互の助け合いもこの街の特色だ。例えば、住民が有償ボランティア組織「お助け隊」を結成し、高齢者から依頼があった家具の移動や照明の取り替えなどの軽作業を時給数百円で請け負っている。地域の課題を解決するコミュニティ協議会の鶴田一会長(78)は「管理費を払っており、本来は管理会社にお願いしたいが限界もある。必要に迫られてやむを得ず立ち上げた取り組みが、住民同士の助け合いにつながった」と振り返る。昨年は10人の隊員で68件対応した。隊員拡大に向けて、剪定など特技を持つ住民の噂を聞くと採用活動に出向く。

 シニアタウンには見守りが欠かせない。ライフパートナーや民生委員など複数のチャネルで安否確認に取り組んでいる。ただ、こうした見守り態勢があっても、「弱った姿を見られたくない」などと最終的に街を離れる人も少なくない。現に敷地内の有料老人ホームに入居するのは殆どが周辺地域の住民で、この街は必ずしも「終の棲家」とはなっていない。ケア態勢を強化すべく、「訪問介護やデイケア施設の誘致に向けて市や事業者と交渉を重ねている」(鶴田会長)。

 街は既に20年ちかく経ち、住み替えが進む。新規分譲の際は、「街の理念に共感してくれる人に来てほしいので、無理には販売しない」(西日本ビル・増田和彦管理部長)が、中古物件は市中の不動産屋でも取引され、突然、価値観の合わない住民が入居するリスクもある。危機感をもった管理会社は、転出する住民の不動産仲介にも乗り出した。入居希望者にはお試し宿泊を勧め、複数の住民と話す機会もつくり丁寧に入居希望者のニーズと街の理念のマッチングを図っている。


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