米空軍が入札制度により募集していたGPS3サテライトが、「応札1件」という史上初の珍事により、テスラ・モーターズ社CEOイーロン・マスク氏がCEO、CTOを務めるスペースX社に落札される見込みだ。
これまで、米軍関連のサテライト打ち上げはほぼユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)の独占状態だった。ULAはボーイング、ロッキード・マーティンが2006年にサテライト打ち上げ部門同士を合体して作った合弁事業。使い捨て型ロケットのデルタll、デルタlV、アトラスVなどを生産する。もともとボーイングはデルタ、ロッキード・マーティンはアトラスで競合関係にあったが、合併することで米政府関係のサテライト事業を独占する巨大企業となった。
ウクライナ侵攻によるロシア経済制裁が
スペースXにはプラスに
一方のスペースXは民間として初めて成層圏にロケットを飛ばし帰還させた企業だ。同社は「ファルコン9」というロケットを使った衛星事業を展開しており、ULAに対して反トラスト法違反と提訴したことがある。
しかし今回、米空軍のGPS3サテライト打ち上げに対してUALは応札しない、と表明。すでに応札していたスペースXが自動的に契約を結ぶ運びとなりそうなのだ。
なぜこのようなことが起きたのか。実は米政府はロシアのウクライナ侵攻を受けての経済制裁の一環として、およそ1年前に「ロシア製のロケットエンジン使用制限」措置を取った。ソユーズなどでも知られるように、ロシアは米以上のロケット先進国だ。実はULAのアトラスロケットも、エンジンにはロシア製のRD−180を採用していた。
米空軍が今回の入札を発表したのが9月30日、11月16日が入札締め切り日だったが、ULAは16日に「入札断念」を表明した。声明の中でULAは「他国政府の基金を利用したサテライト打ち上げは米政府の求めるGPS3ミッションの要求事項に合致しない。残念ながらULAは(打ち上げ予定の)2018年までにRD−180に代わる信頼性のあるエンジンを用意できないと判断した」と訴えた。
2006年以降、スペースXは政府系のサテライト打ち上げへの応札許可を求め続けてきた。ついには空軍を提訴し、応札許可が下りたのが今年5月。わずか半年後に初の落札という運びとなった。
コスト面ではスペースXが1基のサテライト打ち上げおよそ8000万ドルとしているのに対し、ULAは2013年時点では倍以上の1億8700万ドル。この価格差はやや解消されており、今年の時点でのULAのコストは1億3200万ドルにまで下がったが、それでもスペースXとはかなりの開きがある。
それでもULAが契約を取り続けたのは「過去の実績、信頼度、正確性、技術の蓄積」などが認められたため。しかし米を代表する大手航空宇宙産業がサテライト打ち上げのための独自エンジンを作っていなかった、というのはショッキングなニュースでもある。昨年からULAは繰り返し米政府に対しロシア製エンジンの使用制限を取り下げるよう要求してきたが、米下院を中心に「国家安全の観点から」認められていない。