オバマ大統領が始めた国民医療保険制度、通称「オバマケア」。2014年度には700万人、15年度には1170万人が加入、と順調な広がりを見せている。この結果、健康保険を持たない国民の割合は13年には18%だったが、15年には11%前後にまで減少した。
オバマケアは違憲?根強い反対論
しかし、オバマケアを巡っては廃止を求める根強い動きもある。現在、全米50州のうちオバマケアに関して何らかの訴訟を起こしている州は36に上る。加入制度にかかる費用、方法などのテクニカルなものがほとんどだが、「オバマケアは憲法違反」と訴える州もある。
そんな中、ジョン・ベイナー下院議長が中心となり、下院がオバマ政権を訴える、という事態も起きている。この他にも「企業が雇用者に対し医療保険を提供することを義務付ける」という制度や、「オバマケア導入にあたり政府が議会の承認なしに保険会社に支払いを行った」といったことに対し、「違憲である」との訴えが相次いでいる。
政権が行った支払いとは、低所得者に対する保険提供に政府が補助金を出しオバマケア制度作成に着手した、というもの。民主党側は「既にオバマケア実施が決定した後のことで、制度を進めるための支出に議会承認は必要なし」と反論しているが、連邦裁判所判事は「共和党には政権を提訴する権利がある」との判断を下した。
折しも来年は大統領選挙の年。もし共和党政権となれば、元々反対多数だったため、制度そのものの見直しも考えられる。共和党候補の決定後に、オバマケアの未来が政策議論となる可能性は高い。
比較的スムーズに制度が浸透したカリフォルニア州でも、今年に入り46の自治体が不法移民の加入を認めたことから、住民の間で「税金の不当な使用」との批判が高まりつつある。
所得に応じ加入できる医療保険制度は多くの国民の支持を得たが、実施に伴う混乱、不満はまだ解消出来ていない。今後の訴訟や大統領選の行方によっては、制度が白紙撤回される可能性もある。国民皆保険制度を浸透させる困難さに米国は直面している。
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