11月9日、米MLBアトランタ・ブレーブスの元投手、トミー・ハンソン選手(29)死亡のニュースが流れた。ハンソン選手は2006年にドラフトで入団、09年にはメジャーデビューし、将来のエースと嘱望されていた。しかし11年に肩と背中の負傷により勝ち星が減り、12年にはロサンゼルス・エンジェルス(日本の長谷川滋利投手、松井秀喜選手も所属していたことのあるチームだ)にトレードされた。
米国人を戦慄させたのは、その死因。「ドラッグの過剰摂取」が原因とされる。解剖結果の毒物検査を終えないとドラッグは特定できないが、米球界では「間違いなくオキシコドンだろう」という噂が流れている。
オキシコドンとは、米国では医師による処方箋薬として購入できる鎮痛剤。トヨタの女性役員が日本に持ち込んだ、として辞任騒ぎに発展した、あの薬だ。実はオキシコドンをはじめとする、少量の麻薬成分を含んだ鎮痛剤が今「米国を蝕む疫病」とまで呼ばれている。マイケル・ジャクソンの死因となったプロポフォールもこうした「合法ドラッグ」のひとつだ。
薬物過剰摂取の死亡者が交通事故を上回る
現在米国ではこうした薬物の過剰摂取による死亡者が交通事故による死亡者数を上回っている。政府の調査では12年にはオキシコドンなどのオピオイド系鎮痛剤が全米で2億5900万錠処方された、という。医師の処方が必要なはずだが、こうした薬はネットでも販売されており、コカイン、ヘロインなどの麻薬よりも安価なことから「貧者のヘロイン」と呼ばれることもある。
今年10月、プリンストン大学がショッキングなレポートを発表した。米国では長く白人と黒人の平均寿命の差が問題とされてきたが、現在ではこれが縮まりつつある。黒人の平均寿命は延びているのだが、白人の45−54歳の平均余命は逆に縮まっている、というのだ。この最大の原因として挙げられたのが、ドラッグの過剰摂取だ。
ドラッグは人種を問わず大きな問題ではあるのだが、プリンストン大学の調査によると特に「高卒かそれ以下の学歴の白人中年」の死亡率が圧倒的に高い、という。はっきりと原因は特定できないものの、米国で問題提議の多い「格差社会」、その被害意識が最も強いのが「低所得層の白人」と言われる。そこからドラッグに溺れる、という構図が透けて見える。