マングースの異名をとる
アドナニは対外戦略の責任者として、各地域別にそれぞれの国出身のエミールと呼ばれる中堅指揮官を統括、具体的な作戦の細部はこれら指揮官に委ねているようだ。パリの同時多発テロでは、主犯格であるモロッコ系のベルギー人、アブデルハミド・アバウド(27)を監督していた。
アバウドは2014年初め、トルコとの国境の町アザスに滞在していたとされる。当時アザスにはISの前身組織に流入する外国人戦闘員があふれかえっていた。アバウドはシリアの反体制派「自由シリア軍」との戦いで頭角を現した。目立たず、静かに、すばしこい動きをすることから、敵の戦闘員らはアバウドを“マングース”と呼んでいたほどだ、という。
この戦闘ぶりがアドナニの目にとまり、アバウドはフランス語のネイティブであることから欧州のテロ実行部隊の隊長に抜擢された。大きな任務を与えられたアバウドはベルギー、フランスとシリアを行き来し、過激な若者らを徴募して「フランス語部隊」を創設した。
アバウドはアドナニから「テロを早く実行するよう」相当のプレッシャーを受けていたようで、フランスの治安当局者らによると、これまでに当局が阻止したテロ事件6件のうち4件はアバウドが背後に絡んでいた。8月にアムステルダムからパリ行きの高速列車内で発生したテロ未遂事件もアバウドの計画したものだった。
アドナニは対外作戦の実行部隊をそれぞれ複数持っていたと見られ、アバウドの部隊の他にも別の部隊がいる可能性があり、フランス、ベルギー治安当局は携帯電話などの情報や電子交信記録などを詳細に調べ、手掛かりをつかむのに躍起になっている。
ベルギー政府は23日もテロ警戒態勢を最高レベルの4に上げ、地下鉄の運行を停止、学校も休校にするなど都市機能は一部マヒしている。特にブリュッセルのイスラム移民街モレンベークで同時多発テロが計画され、武器も調達されたことから、同地域を重点的に捜索、約20人を拘束した。
しかし同時多発テロの後、フランスからベルギーに逃走して指名手配を受けている実行犯の兄弟の1人、サラ・アブデスラムの行方は不明のままだ。治安当局はベルギー国内に秘密のアジトがあると見て市民に警戒を呼び掛けており、欧州全体を覆うテロの恐怖はなお消えていない。
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