こうした勢力が跋扈し続けている問題の背景は、一般国民の放射線リスクや福島の現状についての情報や知識が十分ではないことにある。例えば、福島県の米は、15年産の玄米の全量全袋検査で、国が設定した世界各国で最も厳しい規制値(100ベクレル/kg)を超えるものは、一つも見つかっていないことをご存じだろうか(15年12月26日現在)。
原発事故後5年を迎えようとする現在、一般国民の放射線リスクや福島の現状に対する関心は薄れつつある。事故直後にネットやメディアで垂れ流された有象無象の情報が、その後事態が落ち着き始めた中でようやくふるいにかけられ、正確な知識やデータが体系立って編集され始めたのだが、そのころにはすでに一般的な関心を引かなくなってきた。その結果、特に福島県から物理的に遠い西日本などの地域では、情報や知識のアップデートがなされておらず、一般国民の頭の中は11年3月下旬以降イメージが固定化されたままになっているのである。
こうした構造が福島県の産品に対する風評被害を固定化してしまう要因にもなっている。福島の復興に向けての日本全体の支援とモラルサポートを健全な形で育てていくためには、国民一人ひとりが、今こそ正しい知識と情報とデータを学びとっていくことが求められている。
しかし、個々人にそうした努力を求めることは難しいのが現実だ。すでに、国や福島県が主導して放射線リスクや福島の現状についての情報やデータは総合的に整備されつつある。さまざまな機関のホームページを見れば、まとまった情報が入手可能だ。むしろ、こうした情報をどのように個々人に届くようにするかが一大課題なのだ。
チェルノブイリでは放射線リスクについて、国連や大学が主体となって各地域にコミュニケーション拠点を置き、その地域の子ども達に正確な情報を提供する事業を熱心に行った。子ども達が自分たち自身で、無駄な被ばくを避けつつ、一方むやみに恐れることで逆に健康を害するということがないようにするにはどのように行動すればよいかを学び、さらにその子ども達が親にも学びの結果を伝えることで親も耳を傾けるようになったという。
リスク・コミュニケーション事業を国が主導せよ
国や福島県では、地元に対するリスク・コミュニケーション策は相当行っているし、民間の医療保健機関やアカデミアなども情報提供・相談に応じている。むしろこれからは、国が主導して、全国に向けてこうしたリスク・コミュニケーション事業をより強力に行っていく必要がある。