マイナスのカードの裏はプラス
インタビューする相手は、功成り名を遂げた人も多く、輝かしい世界で成功している人に見えるかもしれません。でも、みんなが順風満帆というわけではなく、見えない部分に傷をもっていたり悲しみを抱えていたり、吹っ切れない部分をもっていたりします。有名な女優であれ世界的なアーティストであれ、だれひとりとしてこの人は特別だと思ったことはありません。彼ら彼女たちを光らせているのは恵まれた境遇や才能ではなく、乗り越えてきたもの、試練やつらい出来事といったもので、それを乗り越えたからこそ大きな力を発揮できている、それらが今を輝かせるもとになっているんだろうなと思いますね。
運が悪いとか恵まれていないことを、持っているとかいないとか、そんな言葉で表現する人もいますが、「持っていない」と言ってしまうとそれで終わりです。世の中、「持っている」人ばかりじゃない。「持っていないんですよね」と言わないことが、生きてく力になるのではないでしょうか。
ある脚本家の方の言葉ですが、プラスのカードの裏は必ずマイナスで、そのマイナスのカードの裏にあるプラスが人を助けるんだ、と聞いたことがあります。自分に照らして考えてみても、マイナスだと思っていたことが、時が経つと全部力に変わっていた。もし何の苦労もないお嬢様として暮らしていたら、その後ものすごく生きていくのがしんどかったかもしれないし、社会に出てからいじめにあって対応するすべもなく引きこもったかもしれない。そう考えると、あの親にしても引っ越しという状況がきたときの決断にしても、あれでよかったんだと思いますね。
多くの人はマイナスのカードを排斥してプラスだけを取ろうとするけれど、本当に人生に真っ向から向き合っていこうとすると、マイナスのカードを引くことだってある。マイナスのカードが多ければ多いほど、それがひっくり返せたときのプラスは大きいわけですから怖いものはなくなる。インタビューを読むときには、そんなことを感じ取ってもらえたらうれしいですね。(談)
終わりに
コミュニケーション力は生きていくための知恵であり武器でもあると語る吉永みち子氏。これまで多くの女性たちにインタビューした経験から、女性の強さとは試練の中でも自分を語る言葉をもっていることだと言います。いいこともよくないことも自分の言葉で吐き出し、失敗や恥さえ無駄にしないで輝きに変えることができる、そんな女性たちの本音と生き様を鮮やかに描き切った吉永氏の最新インタビュー集『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ社、1月20日発行)をぜひご一読ください。
よしながみちこ/1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)など著書多数。最新刊は『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。