Wedge REPORT

2016年1月24日

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 どうしてそんなことを言ったかというと、向こうが反論しやすいと思ったからです。するとその人たちは「怖いねえちゃんだよな」「金まで払ってだれが見るかよ」などと言いながらさっと離れていった。そういう反応ができるように、相手が打ち返しやすい球を投げるということです。「キャー!」と叫んで逃げると自分はずっと被害者で、毎日顔を合わせる同僚たちに対してストレスを抱え続けることになる。それは避けたいことですよね。言葉は微妙なもので、一方的に投げつけるだけでは相手に届かない。こう言ったら相手はどう受け取るか、ここまでなら言っていいのかどうかを考えないと失敗しますね。

 こんな話を聞きました。大草原でトイレがないときに、女の場合どうやって用を足すか。後ろ向きになるから男は見るのであって、向かい合えば絶対に見ない。そういうものですよね。それと同じことを男性だけの職場で実践してきたように思います。必死でやっているうちに、その場その場でとっさに対応できるアドリブ力が鍛え上げられたのかもしれません。

対立構造を変える

 競馬専門紙の記者をやめてフリーで受けた初めての競馬関係以外の仕事は、企業トップのインタビューでした。相手は大手ビール会社の社長で、編集者とカメラマンの3人で取材に行ったら、広報担当や秘書や10人くらいのギャラリーがいて、なんだこれは? と思いましたね。集中できないから「消えてもらって」と編集担当に言ったんです。向こうはもめていたけれど、結局は退室してもらいました。

 社長は「競馬記者が何しに来た」という感じで、開口一番「私はばくちのようなギャンブルは大嫌いです。社員にも禁止している」と牽制してきたんですね。「企業のトップは常に決断を迫られる立場なんだから、毎日がばくちのようなものだと思っていました。賭ける必要がない企業というのはこの先、生き残っていけるんですかね」と返したら、社長は黙ってしまいましたが、納得していないようでした。

(写真:岡本隆史)

 相手と話が合わないからといっていつまでも対立構造を続けていても仕方がないので、別の方向からアプローチしようと、ふと「犬は飼っていますか」と訊ねたんです。すると社長は犬を飼っていて、しかも会社と関係のある名前をつけていた。なぜそこまで会社に忠誠心をもっているのかと、そこからさらに聞いていくと、その人のこれまでの企業人としての人生が見えてきて、どれだけ会社に恩義を感じているか共感できたんですね。

 そのインタビューをきっかけに、今度は逆にその社長がするインタビューにゲストとして呼ばれたり、請われて社長を競馬場に案内したりという関係になりました。

自分が変われば相手も変わる

 子どものころは体が弱くて、この子は育たないんじゃないかと近所の人から言われていたようです。父母は高齢だったので何を話していいかわからず、しゃべる相手がいませんでした。3日に一度は学校を休んでいましたが、家にいると1日何もしゃべらずにじっとしている。すると頭の中でぐじぐじと考える子どもになって、そんな子は学校でみんなに嫌われていじめられるんですね。

 このままだと自分の人生どうなってしまうんだろうと子どもながらに思っていたら、小学校3年のときに引っ越して転校することになったんです。弱い子、おどおどしている子という周りの評価を突き破るのは大変だけれど、それなら新天地でこれを機に自分を変えようと決めました。どん底というのは案外いいもので、それ以上沈むことはないですから。

 転校するまでの半年間は、自分とは正反対の元気な子の行動を観察して、自分もこんなふうにしようと予行練習までしました。失敗は許されないから綿密に。真剣でした。転校してみると、われながら元気な子の振る舞いがうまくいって、生活そのものがガラリと変わりました。家にこもる生活から抜け出して外で遊ぶようになり、遊ぶとお腹がすくからご飯も食べられるようになる。そんな自分にだんだん慣れてきて、本当にすっかり元気な子になりました。このことで気がついたのは、悪いのは周りじゃないんだ、自分が変わると周りも変わる、ということ。

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