2024年4月24日(水)

古希バックパッカー海外放浪記

2016年4月3日

ホイアンから広がる世界の歴史

 ゆっくりと蓮の花のお茶を飲んでから二人でホイアン旧市街を散策した。ホイアンの大商人の華僑一族であった陳氏の邸宅と祠を見学。250年以上前に建造された歴史的木造建築であり一族からは阮氏王朝政府の高官も輩出しているなどと係員の女性が案内してくれる。祠には一族の祖先が祀られており19世紀後半以降は肖像写真があり当時の服装や風俗が偲ばれて、それらの変遷も興味深い。

ジュリエット、陳氏邸宅前で

 また古い紙幣や硬貨のコレクションもあるが当時の交易圏が現代の東南アジア、極東、インドまで広がっていたことが理解できる。流通していた貨幣により権力の興亡や貿易圏の盛衰も一目瞭然である。歴代中国王朝の貨幣、フランスのナポレオン三世の紙幣、更には日本占領時代の軍票などをジュリエットに簡単に説明すると目を輝かしている。韓国の若者や学生と話していると韓国では反日歴史観教育に力を入れるあまり、世界史を俯瞰するような教育が疎かになっていると懸念することが多いが、ジュリエットは真剣に世界史の基礎知識が不足していることを恥じていた。

 それからホイアン川に沿ってプロムナードを散歩して徳川家光が海禁策(鎖国)を発動する以前に栄えた日本人街のシンボルである“日本橋”を見学。そのあと古い商家を利用した陶器博物館を見学。17世紀から19世紀後半頃まで東西貿易の重要産品であった陶器が陳列されている。日本の有田(伊万里)や中国の景徳鎮などが主要生産地で清やオランダ商人によりホイアンなどを中継地として東南アジアやインドさらには遠くヨーロッパまで輸出されていた交易ルートが古地図に記されている。「現在、欧州各国の宮殿や博物館に行くと必ず有田焼や景徳鎮の陶器が陳列されているけど、当時は高価な芸術品として欧州各国王室で珍重されたんだよ。もしかしたら韓国の陶器も清の商人により輸出されていたかもしれない」と説明するとジュリエットは真剣に見入っている。

優雅なランチ・タイム、天にも昇る至福の時は流れ

 午後1時を過ぎたので、ホイアン橋を渡って旧市街が一望できるレストランでランチをすることにした。このレストランで二日前に一人でビールを飲んだが2階のテラスからの眺望が最高でウェートレスやボーイの応対がフレンドリーだったので再訪した次第。オーナーも私を覚えており大歓迎。日差しが強く日向はかなり暑いが、テラス席は日陰にありしかも川面からの涼風が心地よくジュリエットは大感激。

 まずは生ビールで乾杯。生ビールを飲みながら蒼空を見上げると精神が舞い上がっていく。天空の高みからホイアン川を見下ろしている自分がいる。幸せだと思った。ジュリエットは少し遠慮がちに「タカ、私すごく不思議に思います。あなたと話しているとあなたが話していることが100%理解できるんです。そしてあなたは私が心の中で話したいと思っていることを正確に言葉にして私に話してくれるの。私の英語は不十分だけどタカと話していると全然不自由に思わないの」とゆっくりと言葉をつないだ。ジュリエットと一緒にいて朝から感じていたモヤモヤした不思議な感覚の正体が分かったような気がした。私も全く同じことを朝から感じていたのだ。

 “世界には自分と同じ感性を持った人間が必ずどこかに存在する。その二人が出会えば最小の言葉でお互いの心の中の思いを理解することができる”という昔読んだ本の一節を思い出してジュリエットに伝えると「私はそのお話を信じます」と無邪気な表情で頷いた。


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