2024年12月23日(月)

古希バックパッカー海外放浪記

2016年4月3日

[ベトナム・カンボジア・ラオス・タイ]
(2014.10.25-12.29 65days 総費用18万円)

フランツ・カフカ『変身』から物語は始まった

 11月9日(承前)二人が麺を食べ終わると店の親父が気を利かせてツーショット写真を撮ってくれる。それから蓮の花のお茶を淹れて持って来る。ジュリエットは誰かに似ていると思ったらスケートの浅田真央にどこか似ている。本人にそういうと「たまに言われることがある」という。身長を聞くと165センチなので浅田真央と同じだ。

ジュリエットはベイクド・バナナが大好物

 他愛もない雑談をしていたら彼女が本を持ち歩いているのに気が付いた。昨晩も同じ本を持っていた。見せてもらうと著者名はハングルで“フランツ・カフカ”と読める。タイトルの意味が分からなかったので内容を聞くと≪変身≫である。いまどきの女子がなぜカフカなのか不思議に思って聞くと先輩が勧めてくれたという。彼女は芸術学部で映画や舞台の勉強をしており、将来はそちらの方面の仕事をしたいという。そのため積極的に映画を見て読書しているのだという。私も学生時代に≪変身≫を読んだが難解で退屈なので途中で投げ出したので、その旨を伝えるとジュリエットは拍子抜けするほど素直に「私も一緒です。でも先輩に勧められたので無理して少しずつ読んでいるんです」

 「あのー、太宰治の○○○○を読んだことがありますか」と逆に聞いてきた。ハングルの題名が分からなかったが少し内容を聞いて“人間失格”だと理解できた。「“人間失格”を読んでいると気持ちが落ち込んでこなかった?」と尋ねると「ええ、本当に落ち込みました。私だけが落ち込んだのかと思っていたら誰でも落ち込むのですか?」との反応。私が「特に敏感な感受性を持った若い人は影響を受けて精神的に暗くなってしまう。逆に“人間失格”を読んで落ち込まない人は感受性が欠如している人か、または余りにも年を取って感受性がなくなってしまった老人だと思う」と持論を述べた。彼女は嬉しそうに納得した。

≪アンナ・カレーニナ≫はジュリエットの宝物

 それから彼女は「≪アンナ・カレーニナ≫を読みましたか」と聞いた。「トルストイの作品のなかでは一番好きだ。文学の歴史のなかで最高傑作のひとつだと思う。小説としてストーリー展開が面白くて一気に読んでしまった」と答えると、ジュリエットは我が意を得たりとばかり「私もそう思います。私は映画も見たのですがアンナ役を演じたビビアン・リーは素晴らしい女優だと思います」と得意そうに話した。「ビビアン・リーはどんなヒロインを演じても自分の世界を表現しているね。≪風と共に去りぬ≫では全く異なる対照的な強い意志を持ったヒロインを演じている」とゆっくりと感想を述べると「驚きました。実は私も同じ意見を言おうと考えていました」と不思議そうな表情で私をみつめる。

 「≪アンナ・カレーニナ≫は当時の世界の文学界に大きな影響を与えた。日本の近代小説の傑作≪或る女≫はその一つだと理解している。有島武雄という作家だよ」と説明したらジュリエットは手帳にメモしている。有島武雄をローマ字で書いて≪或る女≫を“A Woman”と直訳して韓国でも翻訳が出版されているだろうと伝えた。


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