大きい者としてやるべきことを自覚する
とにかく風の谷幼稚園の子どもは、年少の子どもへの気遣いがとても穏やかで温かだ。先生が特別な指導をしなくても、5歳児たちは年長者として当然のように年少の子どもたちに優しく接することができる。しかし、開園当初からこうだったわけではない。まさに12年間の教育努力の賜とも言える伝統だが、まずはその経緯を振り返ってみよう。
風の谷幼稚園が開園して初めて編成した年長児クラスでは、年少児や年中児に対して「自分より小さな子どもたち」という意識が薄く、先生が意識的に関わらせなければ関係を持たない傾向にあったという。
「『入園したばかりの年少児たちの面倒を見てやろう』と提案すると『何で面倒をみなくちゃいけないの?』という発言がでるほどでした。『大きい子が小さい子の面倒をみるのは当たり前』と思っていた私には、この発言はとてもショックでした」(天野園長)
「なぜなんだろう?」「どうしてなんだろう?」あれこれ思い悩む日が続いた。そして、「もしかしたら、年長児から世話をしてもらった経験がないことから、年上とか年下とかの意識が持てないでいるのではないか」という思いに至ったという。
実際にこの子どもたちは、年長児に優しく面倒をみてもらったという経験がなかったのだ。
そこで「たてわり活動」というプログラムを保育に取り入れた。そして、多少の無理は承知で、機会あるごとに「年長児」として年少、年中と一緒に行動し、自分よりも小さい子どもに関心を持ち、彼らを理解し大事にするよう要求していった。
そんな実践が年長児たちの意識を少しずつ変えていいき、次第に自分より小さい者への関わり方に変化が生まれ、大きい者として何をなさねばならないかを考えて行動するようになったという。
相手の気持ちを慮れる子どもたち
自分が優しくしてもらって初めて優しくできる。優しさの表現の仕方を知るということでもあるのだろう。年長児クラスの学級通信には以下のような一節が記されている。
花組時代を思い出しながら、「あのね、いっぱい泣いた」という七海ちゃんの言葉に「うんうん」とうなずきながら、「泣いてばかりいた」「お母さんと離れるのがイヤで泣いた」という声があちこちから上がりました。
そして「泣いたけど、風組が折り紙を折ってくれたり、ぬり絵をくれたりしたから、うれしかった」と当時の風組がしてくれたことを思い出していました。
幼稚園のことは何もわからずさみしくて心細かったとき、風組が優しくしてくれたことは、不安な子どもたちにとってどんなに大きな心のよりどころになったのか、改めて感じました。
風2組学級通信「麦」より