協定成立過程で生じた齟齬
リオデジャネイロ五輪の切符を手にした米女子サッカー代表。今夏に大会3連覇を目指す代表選手達だが、はしなくも不測の事態に巻き込まれている。
米国サッカー連盟(USSF)と同国女子代表チームの選手会(WNTPA)が労使協定の有効期限を巡り対立。2013年3月19日に結んだ現在の労使協定を「16年末まで有効」と主張する連盟側と「12年末で満了」とする選手会側とで食い違う。そこで連盟側が本部を置くイリノイ州シカゴの連邦地裁にて提訴に踏み切ったというもの。気になるのは「有効期限」に4年もの隔たりがあることだ。
入手した70ページにも及ぶ訴訟資料に目を通すと、現在の労使協定が成立するまでの過程で齟齬が生じていたのが分かる。選手会側は「13年3月19日に成立したのは基本合意であり、新労使協定はこれから協議されるもの」とし、さらに、「基本合意の条項は変更と破棄ができる」と付記している。一方の連盟側だが「13年3月20日に16年までの新労使協定の重要諸事項に合意した」と記すものの、肝心な「協定締結」の文言は見当たらない。
事案の実相
欠如した当たり前の議論の積み重ね
事案と共幅にある両者の思惑――昨年のロンドンW杯でなでしこジャパンを破り、頂点を極め勢いづく米女子代表と、リオ五輪を前にして諸待遇の改善を求める機運を共に高める選手会側と、スト禁止条項を盛り込む現労使協定の有効性にお墨付きをもらいたい連盟側――が大方の見方ではあるまいか。だが、かかる思量は提訴への道筋をたどると、あっさり退けられる。
14年の末に、選手会のトップが入れ替わっている。それまで14年に渡り舵取り役を担ってきたジョン・ランジェル事務局長に代わり敏腕弁護士のリチャード・ニコラス氏が就任。連盟側が主張する現労使協定締結の時から約2年後のこと。それゆえ、就任直後からニコラス氏は労使間の状況を把握するため、連盟側との約束事や今回訴状に上がった労使協定の諸事項をつぶさにチェック。その中でメスを入れたのが「締結ではなく基本合意」だった。