2024年12月6日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2009年11月25日

 上海の学生対話集会は米側の強い要望に中国が折れて実現したと言われているが、人権や表現の自由などオバマ大統領が対話の場を通じて大衆に訴えたかった真意は、中国の巧妙なメディア戦術によって封じ込められた。

 言ってみれば、今回の訪中にあたって、「中国を封じ込めるつもりはない」と度々宣言したオマバ大統領は、結局中国による「言論封じ込め」の対象となった。何という皮肉な話であろうか。

大統領が仕掛けた奇策

 このような無礼千万の「言論規制」に不満を感じたのか、オバマ大統領は訪中の間にある奇策に打って出た。中国の人民日報や中央テレビ局などの御用メディアからの取材の申し込みをいっさい拒否していたオバマ大統領は、中国の胡錦濤国家主席と会談した際に突如、『南方週末』という中国の国内新聞の名前を言い出して、この新聞からの取材を受けたいと申し出たのである。

 『南方週末』というのは中国の広州市に本社をおく一地方紙ではあるが、中国で起きる人権侵害などの問題に積極的に切り込む「開明派新聞」として全国的に知られている。実際、広州だけでなく、北京や上海など全国の大都会でも販売されているから、いわば「準全国紙」としての地位を勝ち取っている。

 もちろん『南方週末』は、人民日報や中央テレビ局などを差し置いてオバマ大統領に取材できるとは夢にも思っていないし、取材を申し出たこともない。逆に、中国の御用メディアに嫌気がさして、オバマ大統領は、駐中国アメリカ大使館の推薦を受け、『南方週末』からの取材を受けようと自らが決め、胡主席に「直訴」したわけである。

 大統領からの突如の申し出に、胡主席はさぞ驚いたであろうが、国賓であるオバマ大統領の「たっての願い」を拒否するわけにもいかない。結局、胡主席からの同意を得て、オバマ大統領が仕掛けた『南方週末』取材は実現した。

紙面が空白? 前代未聞の新聞報道

 しかし、事件が起きたのは、オバマ大統領が中国を後にした翌日の11月19日。インターネットの予告で、この日に発売された最新号の『南方週末』にオバマ大統領への単独インタビュー記事が掲載されることを知った人々は、競って同紙を購入したが、それを手にした途端、読者たちはいっせいに我が目を疑った。

 確かに、オバマ大統領のインタビュー記事は新聞の2面の上段に短く掲載された。しかし、2面の下段部分は何と、何も掲載されていない「空白」であったのだ。そして新聞の1面の下段も、実は空白のままだった。

 要するに当日の『南方週末』は、紙面の1面の半分と2面の半分を空白にしたまま、販売したのである。

 もちろん、このような前代未聞の出来事は、けっして『南方週末』の本意ではない。空けた新聞紙面はもともと、オバマ大統領へのインタビュー記事を掲載するために取っておいたスペースだったのである。

 しかし、大統領が中国を発った直後に、『南方週末』の編集部に中国共産党宣伝部の検閲が入ってきた。記者が書き上げたインタビュー記事に対する厳重な検閲の結果、宣伝部は記事内容の大幅な削除・圧縮を新聞社に命じたのだ。


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