何にもまして、EUおよび西側はその奉ずる価値を守り、単純化された安直な抑圧に陥ることを避けることが必要である。トランプにとっては、ブリュッセルの事件は米国からムスリムとメキシコ人を閉め出す壁を築くためのもう1つのレンガである。ルペンにとっては、移民の居住区域の警察による大規模な急襲の口実となる。これらの政策は個人と集団の自由と宗教的な寛容性の上に築かれた開かれた社会を掘り崩す。それは降伏の白旗である。ISISとその追従者は社会を引き裂くことを学びつつある。我々は強靭性を備えることが必要であり、彼等の術中に嵌ってはならない。
出典:‘An assault on Brussels, and on European values’(Financial Times, March 23, 2016)
http://www.ft.com/intl/cms/s/0/2778c934-f02b-11e5-aff5-19b4e253664a.html#axzz43hMq9iPm
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ISISの存在が欧州の右翼伸張を助ける
この社説にもありますが、ベルギーにはフラマン系とフランス系の対立という特有の問題があります。そういう要因もあって、ベルギーの治安当局は能力が低いとテロリストに見くびられているのでしょう。テロの規模から見て、ブリュッセルを根城とするテロリストによって長く温められていた計画であり、これが前倒しで実行されたということでしょう。
ISISの求心力は衰えていないようです。その支配地域でテロ要員を訓練し、彼等を欧州に送り返すことが依然として容易にできているように見えます。彼らは、武器、弾薬を容易に手に入れることができるようですし、EU内を容易に動き回ることができるようにも見えます。今回の事件は、国境管理の問題を改めて提起させるでしょう。
さらに、今回の事件は何時までISISを許容するのかという問題をも提起させるでしょう。ISISを「弱体化し壊滅させる」時期は何時になるのでしょうか。ISISをラッカから追放することに成功しても、テロは根絶できないでしょうが、テロのネットワークに打撃を与え、潜在的テロリストに対する吸引力を削ぐことはできます。ISISの存在は、欧州において、心理的、政治的に大きな意味を持ちます。極右の伸長を助けることとなり、別の意味で脅威となります。米国では、トランプの主張(ムスリムの入国禁止、テロ容疑者に対する水責め尋問)のような、社説の言う「単純化された安直な」抑圧策に走ることを助けることに繋がります。
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