2024年12月23日(月)

コラムの時代の愛−辺境の声−

2016年4月14日

 先ごろ亡くなったイタリアの作家、ウンベルト・エーコは記号論を駆使した小説『薔薇の名前』で名をはせた人だが、政治評論でも予言的な面白い作品を残している。今回は邦訳もある『永遠のファシズム』(岩波書店、和田和彦氏訳)のエーコの言葉から、日本の現在を考えてみたい。

ウンベルト・エーコ氏

 ファシズムとは、<一枚岩のイデオロギーではなく、むしろ多様な政治・哲学思想のコラージュであり、矛盾の集合体>だ。

 イタリアで始まったムッソリーニのファシスト党という名から、ファシズムは全体主義を指す言葉とみられてはいるが、「イズム」と呼べそうな明確な主義主張も、それを突き動かす存在もないと、エーコは言い切っている。要はコンピューターのCPUのように、それを壊せばすべてが崩れる中央制御がない。

 ファシズムとは、まるで脳のように、膨大な数の細胞が複雑につながり一つのネットワークを築いており、すべてを統括する部位はない。私にはそう読み取れる。

ファシズムの特徴14点

 ウォルフレンは『日本権力構造の謎』で、「日本の権力」には中枢やそれを制御できる実体がどこにもないと指摘した。ファシズムが「コラージュ」だという言い方は、それとどこか重なる気がするが、はたしてどうだろう。エーコの定義を見てみよう。

 エーコはファシズムの典型的特徴を、14点列挙している。その特徴があるかどうかで、その社会がファシズムに侵されているかどうかわかるというのだ。ファシズム的な国や社会がすべてこの特徴を備えていなければならないということではない。そのうち一つでも一致すれば、ファシズムということになる。

 <その特徴はひとつのシステムのなかに整然と組織されている(並んでいる、筆者注)ものではありません。その多くが互いに矛盾し、独裁体制や狂信主義の別の形における典型的な特徴なのです。けれどファシズムという星雲を凝結させるためには、そうしたなかでどれかひとつ、特徴の存在が確認できれば充分です。>


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