欧州連合(EU)は4日、ギリシャに不法入国した難民のトルコへの送還を開始した。難民危機に悩むEUがトルコとの間で先月合意した枠組みによる措置。難民の欧州流入に歯止めがかかるのか疑問がある上、ギリシャでテロの恐れも浮上するなど難民送還の前途は多難だ。
難民の流入抑制に疑問
難民送還の第1陣は、ギリシャ・エーゲ海のレスボス島からの136人、ヒオス島からの66人で、2時間かけてトルコのディキリに到着した。第1陣の難民はパキスタン人が多く、バングラデシュやモロッコからの難民も含まれていた。今後、シリアからの難民などを順次、送還していく方針。
今回の合意は、難民危機に翻弄されるEUと、難民支援の増大とトルコ人のEU査証免除などを求めるトルコの利害が一致した結果だ。合意が発効した3月20日以降にギリシャに到着した難民を基本的に全員、トルコに送還する。送還される中にシリア難民が含まれていた場合は、1人につき、トルコ滞在中シリアの難民1人をEUに定住させる、という内容。
しかし大量のシリア難民を抱えるトルコでは、難民がこれ以上増えることに反発の声が強い。この日難民船が到着したディキリでは、難民受け入れ反対の抗議デモも起き、難民の中に過激派組織「イスラム国」(IS)のテロリストが紛れ込んでいるとの不安が広がった。
合意の狙いは、欧州に流入する難民の抑制だ。欧州に到達しても強制送還されることが広く伝われば、欧州を目指す難民が激変するという想定だ。しかし、これで難民の流入が止まるという保証はない。4日もトルコからギリシャには約60人がゴムボートなどで到着するなど流入は続いている。
欧州のアナリストらによると、トルコからのルートが仮に縮小しても、難民らは今度は密入国業者の手で他のルートから欧州に向かう懸念が強いという。中でも北アフリカのリビアから地中海を渡ってイタリアを目指す難民が急増するのではないかと見られている。
人権団体は今回の送還について、本来保護されるべき難民も送還されるのは国際法違反とし、国際アムネスティは「人権への歴史的打撃」と批判を強めている。難民による暴動の発生も懸念材料だ。すでにヒオス島の収容所では2回に渡って難民らが暴徒化し、ギリシャの治安部隊と衝突しており、今後、死傷者が出る恐れが強い。
トルコ側に十分な受け入れ態勢ができているかどうかも問題だ。トルコは既に300万人のシリア難民を抱えており、財政の負担増や治安の悪化に苦しんでいる。EUが合意に当たってトルコに対する難民支援を60億ドル(6600億円)に増やしたが、これでは不十分という声も強い。
トルコが今でもシリア難民をシリアに強制的に送り返しているとの情報もあり、エルドアン政権の難民政策を不安視する向きもある。