2023年2月5日(日)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2009年12月16日

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城山英巳 (しろやま・ひでみ)

北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院 教授

慶應義塾大学文学部卒業後、時事通信社に入社。計10年の北京特派員を経て2020年から現職。ボーン・上田記念国際記者賞受賞。早稲田大学大学院社会科学研究科博士後期課程修了、博士(社会科学)。著書に『天安門ファイル』(中央公論新社)、『マオとミカド』(白水社)など多数。

 銭其琛元副首相(外交担当)は回顧録『外交十記』で天皇訪中を振り返り、89年の天安門事件を受けた西側諸国の制裁を「打ち破る最良の突破口だった」と振り返り、天皇訪中を政治的に利用した事実を認めている。

ルール・常識超えた民主党と中国共産党の関係

 「天皇の政治利用」などは、中国にとってみれば日本国内の問題であり、天皇を「元首」とみなす中、その国際的な権威や重みを最大限利用しようとのしたたかな外交戦略を持つ。

 習氏は14日、鳩山首相との会談で「周到な手配をしていただいたことに心から感謝の意を表したい」と表明した。胡錦濤氏と同様に副主席として天皇と会見できたことは、習氏の「権威付け」にとってプラスになったのは間違いない。逆に天皇と会見できなければ、メンツ失墜を国内にさらすことになっただろう。

 一方、習氏の「感謝発言」には、天皇との特例会見は日本側が決めた問題と強調することで、中国で国内問題化することを避ける狙いがあったことも注意しなければならない。歴史問題を抱える日本への安易な接近は国内で「売国奴」呼ばわりされる危険をはらむためだ。「ポスト胡」へ政治的に敏感な時期を迎える習氏にとって日本や天皇への国民の複雑な感情が自身に降りかかることは何としても避けねばならなかった。

 だから天皇との会見を強く求めながら、日本側に蹴られる事態は最悪のケースだった。こうした中で中国が天皇会見への最終手段として使ったのが「政治ルート」であった。小沢幹事長は会見実現に向けた働き掛けを否定しているが、中国側幹部は平野、小沢両氏をはじめ多くの大物政治家に接触した。

 中国が、政府間や外交ルートで解決が難しい日中間の懸案について、親中派の大物政治家との人脈を使って動かそうとするのは対日工作における伝統的手法だ。これまでも田中角栄、竹下登、金丸信、福田康夫氏らに接近、「一点突破」を図ろうとしてきた。

 10日に北京・人民大会堂で小沢氏と会談した胡錦濤国家主席は、同行した143人の議員のうちほとんどとのツーショット撮影に応じた。常識では考えられない特別サービスだ。一方、関係者によると、小沢氏側の求めていたツーショット撮影を中国側が了承したのは小沢氏らの出発直前。そのころ「習・天皇」会見実現に向けた崔大使ら中国側の工作は佳境を迎えていた。

 この裏にどんな「取引」があったかは明らかではないが、接近を続ける民主党と中国共産党の関係はルールや常識を超えて親密度を増していることだけは確かなようである。

 

※次回の更新は、12月23日(水)を予定しております。

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜

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