クリントンとトランプの狭間で
中西部インディアナ州インディアナポリスでトランプ支持者の白人女性にオバマ広島訪問について意見を求めると、「日本人の問題です。日本人がオバマの広島訪問を歓迎するならば賛成です。逆に、日本人が訪問を歓迎しないのなら(オバマの広島訪問に)反対します」と語っていました。トランプ候補及び共和党幹部は、オバマ広島訪問を原爆投下に対する否定及び謝罪と結びつけて、このような支持者の認識を変えていくことができます。
2012年米大統領選挙において共和党候補であったミット・ロムニー氏は、異文化に敬意を示して橋を架ける対話重視のオバマ外交を「謝罪外交」だとレッテルを貼り、米国が諸外国に対して謝罪する必要はないと主張しました。今回の米大統領選挙では野党共和党は、クリントン政権が内政と外交においてオバマ政権の3期目になると非難してくるのは間違いありません。
前述しましたように、共和党候補指名が確実になったトランプ候補が、オバマ広島訪問は原爆投下に対する否定と等しいと主張し、謝罪に反対する退役軍人に訴えて、彼らの票を獲得する選挙戦略に出ないとは言い切れません。トランプ候補は、退役軍人は不法移民よりも待遇が悪く、不公平に扱われているというメッセージを発信しています。戸別訪問を実施しますと、クリントン陣営の標的となっている有権者の中にもトランプ支持の退役軍人がいるのです。それほど、トランプ候補は彼らから支持を得ているからです。
トランプ候補は、本選を意識してクリントン候補が「女性のカード」を切って選挙を行っていると批判しています。クリントン候補が女性の立場を利用して、男女の賃金格差是正などの政策を取り挙げ、女性票を獲得しているのは不公平だと同候補は言いたいのです。
しかし、トランプ候補も「ジェンダーのカード」を活用して「男性のカード」を切り、白人男性の有権者に訴えているのです。たとえば、共和党候補指名争いでは女性蔑視の発言を繰り返し、国境の壁やイスラム教徒の米国入国全面禁止といった強硬策を打ち出して、特に男性支持者に対して「安全保障に強い頼りになるリーダー」というイメージ作りに成功したのです。その背景には、男性に不人気のクリントン候補から無党派層及び民主党の男性票を奪い取ろうという狙いがあるのです。