――市原学園は個室になっていますが、その意図は?
寮内にはホールがあり、食事や係活動などはホールで行います。
基本的にはプライバシーを配慮しての構造です。ただ、実際の運用の中で感じることとしては、社会では、同じ年頃の子たちはスマホで繋がって嫌なことがあれば、それが自分自身の責任だったとしても他人の悪口を言ってそれを共有したり、その他の娯楽で気を紛らわすなどして、自分の弱さなど認めなくても生きていけます。でも、ここでは外と繋がることができませんので、一人にならざるを得ません。目の前は壁、窓はあっても、おのずと自分自身と向き合う時間が多くなります。
そうすれば嫌でも自問自答しながら、心の弱さと向き合うことになります。脱皮するためには一人でいる時間が必要なのだと思います。
―少年たちの変化や成長を感じるときはどんなときでしょうか。
自分の弱さを認めるような言葉が自分の口から出るようになったときですね。
ここに入って来る子たちは、「親が悪い」、「家族が悪い」、「先生が悪い」、「環境が悪い」というように他罰的な考え方をする子が多いと感じます。誰でも、見栄があったり、自分を認めてほしいから自分を悪くは言いたくなんです。ですが、物事はとらえようですよね。
「家が貧乏だから、俺は泥棒をやっている」と考える子がいる一方で、世の中では家が貧乏だからこそ這い上がって偉くなったという方がたくさんいます。
たとえ経済的に恵まれていなくても、奨学金を取って勉強して、卒業して、会社に入って上を目指すと考えるか、貧しいから人の物を盗んでしまおうと考えるか、恵まれていない環境は同じでも、そこには大きな違いがあります。
ここには言い訳をして、楽な方、楽な方へと進んでしまう子が多いと感じます。
彼らの成長を見る瞬間とは、自分の心が弱いことを認めたり、悪いことをしたのは自分のせいなんだと自ら言えるようになったときです。それは大きな成長と言えると思います。
―ー生育歴を把握する過程で、それぞれのターニングポイントまで見い出せるものでしょうか。
生育歴は家庭裁判所等の書類を読んだり、本人からも直接聞き取って把握するようにしています。
ターニングポイントの多くは勉強がわからなくなったときです。これは成績が良かった子でも、学年が上がるとわからないところが出てくるのは当たり前のことで、その壁にぶつかったときに、踏ん張って身近な誰かに聞くとか、先生に聞くとか、いろいろやれることはあるはずです。