――社会復帰に向けた課題は?
市原学園の教育期間は約5カ月です。その間、我々教官と彼らだけの関係であればそれなりに安定しています。しかし、そこへ外部からの情報が入ってくると子どもたちは気もそぞろになります。だから、若い頃は外部の方の必要性をあまり感じていなかったのです。以前は少年院も職員も閉鎖的なところがあったように思います。
ですが、この中だけで完結させてはいけないのです。彼らはここに約5カ月間しかいません。圧倒的に社会にいる時間が長いわけですから、その社会に理解を求めなければ彼らに居場所がなくなってしまいます。
彼らは社会復帰に向けて彼らなりに頑張っています。それを広く社会にも知ってもらわなければならず、最近は広報活動の重要性が指摘されるようになりました。
これからの少年院はもっと外部と連携することを考えていかなければなりません。そういった観点から、2月に行われたタグラグビー講座は、外部講師によって我々にないものを待ち込んでくれましたし、伝えてくれました。とても良い刺激をいただいたと思っています。
スポーツにはチカラがあります。それをこれからも活かしていきたいと思っていますし、今後はさらに外部との関係を深めて、職業の選択や進路などの考え方に選択肢を増やしてあげたいと思っています。
――法務教官 吉江正芳専門官にお聞きしました。吉江教官、ありがとうございました。
市原学園 佐藤淳次長に少年院を取り巻く環境について聞く
――犯罪件数は減少しているのに、少年院のイメージはなぜ改善されないのでしょう?
以前はかなり体育的な要素を取り入れて、心身ともに鍛えるという時代もありましたが、現在は科学的な根拠に基づいてカリキュラムを立てて、学校と同じように1週間単位のスケジュールを作って内容も充実しています。
しかし、一般的に少年院のイメージというのは、2015年に起きた「川崎市中1男子生徒殺害事件」のような犯罪ばかりがマスメディアに取り上げられるためでしょうか、かなり悪く捉えられているかもしれません。視聴率が取れるからなのでしょう。しかし、実際の少年犯罪はそういったものばかりではありません。偏った報道によって、少年院の認識も偏ったものになってしまっていると思われます。少年院に入ってくる子たちも、全てそういった目で見られてしまいがちです。
犯罪白書を見ていただければ、検挙数やその時代の犯罪の傾向などもわかります。少年犯罪には時代を反映した流れがあって、他人を殺めた少年ばかりが少年院に入ってくるのではないという認識を持っていただきたいと思っています。
――社会復帰に向けた取り組みについて
我々の職務の中でこうした施設から出ていく人たちに対する就学、就労支援というのが指針としてあります。就労支援のスタッフを非常勤で採用してハローワークとの連携を強めています。こういった以前はなかったようなシステムが動いています。
ハローワークを経由して就職していくケースは飲食、サービス、建築関係などで、仕事の種類を選ばなければ職はあります。そのためには自分が何をしなければならないか良く考えることです。
――再犯をしない、させない要因はどんな点にあるとお考えですか?
それは懐の広い社会になってほしいということです。彼らを落ちこぼれにしてしまうような、懐の浅い社会ではなく、排除することなく、受け止めてあげられるような社会であれば、再犯はかなり減るはずです。
家庭の問題もありますし、その他の生活要因もありますが、いかに社会に軟着陸させるか、そういう土壌を持てるよう理解のある人たちを増やしていくことです。社会にその理解なくしては再犯を減らすことは難しいです。
レッテルを貼って排除して、放出してしまったら、本人たちは身動きが取れなくなってしまいます。きっと一番悪い結果を生み出します。
いかに理解を広め懐深くなれるか、それが社会から再犯を減らしていく要因です。
――市原学園 佐藤淳次長にお聞きしました。ご協力ありがとうございました。
「市原学園~365日・24時間体制で臨む法務教官の役割とは」の取材にあたり、職員の皆さまには多大なるご協力をいただきました。
深く感謝しております。
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