企業と従業員の長期的な信頼関係を取り戻す
日本企業のイノベーションは、企業と従業員の長期的な信頼関係の中で生まれてきた。イノベーションが「魔の川」を渡り「死の谷」を越えて「ダーウィンの海」に乗り出すには、企業にも従業員にも不確実性に挑戦しようという動機付けが欠かせない。ノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈さんは、かつて在籍したソニーのイノベーションを生み出すカルチャーを「組織された混沌」と表現した。AIBOの開発責任者だった土井利忠さんはそれを「フロー経営」と名付けた。そして、それは米国式経営の導入によって破壊されてしまったと言っている。
イノベーションを産まなくなってしまった日本の製造業で、イノベーションを起こす人材を育成しイノベーションを可能にするための組織をつくる企業が増えてきた。現業部門から切り離して、目先の収益に縛られることなく将来のイノベーションを追求することを専門に担うという位置づけのようだ。しかし米国式経営の中で、オペレーショナル・エクセレンスとイノベーションは共存できない。オペレーショナル・エクセレンスは、新しい事業を創造するための試行錯誤を伴うイノベーションの取り組みを無駄とリスクとして排除しようとする。日本企業がイノベーションを取り戻すには、まず「企業と従業員の長期的な信頼関係」を基軸にした経営を取り戻す必要がある。
スティーブ・ジョブズの時代のAppleでは、ティム・クックがオペレーショナル・エクセレンスを担当していた。そしてイノベーションはオペレーショナル・エクセレンスに排除されることなく、トップで株主を無視するスティーブ・ジョブズによって優先されてきた。スティーブ・ジョブズ亡き後のAppleからイノベーションは生まれていない。
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