これは嬉しい反面、戸惑うことも多々ある。というのも欧米人から見れば日本人は私だけなので鮮明に印象に残っているが、私にとっては毎日出会う巡礼者は全て欧米系であり、よほどの美人でもない限り印象に残らないのである。どこかの巡礼宿で同じテーブルにいて一緒に会食しても数日経って違う場所で会えば誰だか分からないのである。
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コンクから先の道程では次第に巡礼者が増えてくるので益々頻繁に私にとっては“知らない人”“見覚えのない人”から「ハロー、タカ! 元気か?」「タカ、先日は楽しかったよ。今夜も一緒に飲もうよ」とか突然声を掛けられてオタオタすることが多くなった。どこで会ったか、出身国や名前すらも全く記憶にないのに相手が一方的に嬉しそうに話し始めると相手が誰かを確認できないまま相手に話を合わせながら、過去の記憶を取り戻そうと焦るのである。
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おそらく四国巡礼で金髪碧眼の外国人が一人で歩いていれば日本人の巡礼者にとり興味津津であり、一度挨拶すれば絶対に名前や国籍も含めて忘れないであろう。そのガイジンにとっては、逆に毎日たくさん出会う同じような顔つきの日本人の名前を憶えるのは不可能であろう。
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どこに行っても“面が割れている”(相手が一方的に自分のことを知っている)かもしれないというのは精神的には厄介であり負担である。記憶喪失者が知らない人間から声を掛けられて不安になる状況に近いのではないか。しかし巡礼旅の半ばになるとあまりにも頻繁にあることなので開き直って適当に握手したりハグしたりすることに慣れてしまった。
⇒第5回へ続く
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