チャイナ・ウォッチャーの視点

2016年6月29日

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城山英巳 (しろやま・ひでみ)

時事通信社外信部記者

1969年生まれ、慶應義塾大学文学部卒業後、時事通信社入社。社会部、外信部を経て2002年6月から07年10月まで中国総局(北京)特派員。 外信部を経て11年8月から2度目の北京特派員。11年、早稲田大学大学院修士課程修了。現地での中国取材は10年に及ぶ。16年5月に帰国し、現在外信部記者。近著に『中国 消し去られた記録〜北京特派員が見た大国の闇』(白水社)、著書に『中国臓器市場』(新潮社)、 『中国共産党「天皇工作」秘録』(文春新書、「第22回アジア・太平洋賞」特別賞受賞)、『中国人一億人電脳調査』(文春新書)がある。14年に戦後日中外交史スクープで13年度「ボーン・上田記念国際記者賞」を受賞。

懺悔映像「監督、せりふあった」

 林栄基は1月28日には香港・鳳凰衛視(フェニックステレビ)に出演させられた。そこで中国共産党批判など中国本土で取り扱いが禁止される「禁書」を中国で販売した「違法経営」容疑に関して「誤りを深く認識している」と罪を認めさせられた。

 中国では近年、人権・言論弾圧など国際社会が関心を高める問題で、当局が体制に批判的な人物を逮捕した際、国営・政府系テレビにその人物を登場させ、「懺悔自白」の映像を放映するケースが急増している。国家権力が自分たちの描いたストーリーを宣伝するだけでなく、国家権力に逆らった人物の「汚名」を狙ったものだ。本来罪を認めるかどうか表明するはずの裁判所でなく、国営メディアで「罪」を下されることへの批判は大きく、「人民テレビ法院(裁判所)じゃないか」という揶揄の声が集中している。

 林栄基は記者会見で「当時は罪を認めるよう迫られ、認める以外に方法はなかった」と明かし、「(罪を認めたテレビ放送には)監督もおり、せりふもあった」と、強制的なやらせであることを暴露した。さらに林栄基は香港に戻って、李波とも会い、李が林に「自分の意思に反して連行された」と認めたとも明かした。

 香港メディアのインタビューに「(拘束中の)今年1、2月、自殺しようと思った」と漏らした林栄基は「今もその考えはあるか」と記者から聞かれ、こう答えた。「香港で将来的に(中国当局によって)『自殺したように装われる』ことがあるかどうかは分からない。しかし自分では自殺しない」

香港行政長官の不快感

 林栄基の内幕暴露は「脅威をものともしない」(香港ニュースサイト・端伝媒)と評され、香港、中国大陸、台湾、国際社会に大きな反響を呼んだ。

 李波は即座に「私は銅鑼湾書店のコンピューターを使用したことはなく、いかなる顧客名簿を公安当局に渡すことも不可能だ」とコメントし、「自分の意思に反して連れて行かれたという類いの話を彼(林栄基)と話したことはない」と強く否定した。中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報も、「(林栄基証言の)実質的内容は多くない」と疑問を投げた。

 こうした中、中国共産党の言いなりと批判されている香港の梁振英行政長官が21日、林栄基が中国当局による連行の実態を暴露したことを受け、中国政府に懸念を表明したのは注目に値する。梁はさらに香港市民が中国本土で拘束された際の香港と中国政府の連絡メカニズムを通じて香港市民の合法的権益を保障するよう要請。「我々は事実を知らない。知っていることはすべてがメディア報道によるものだ」と不快感を示した。

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