IWCにおいて、一度決まった決定を覆すには4分の3の多数を要する点が、いかにも高い壁である。力関係の現状は、日本が率いる推進派と、英国などが引っ張る反対派とが拮抗する綱引き状態で、いずれも4分の3を取れない。日本の調査捕鯨をやめさせられない代わり、日本が求める商業捕鯨の再開も無理だ。
そこで日本国内では、IWCからの脱退を勧める声が既にある。
しかし脱退すると、調査捕鯨という錦の御旗=遠洋捕鯨正当性の根拠を失うことになる。豪州やニュージーランドは、鯨禁猟区の尊重を始め、厳格な法執行を日本に対し実施してこよう。それゆえ遠征型の捕鯨は、脱退したとしても結局のところできない。強行した暁には、外交上の危機を招来することも考えられる。
他方、あり得ない想像だがIWCで悲願がかなったとする。その場合でも、実は日本に「商業」捕鯨者は現れない。捕鯨を取り巻く経済実態がそれほど厳しいからである。
鯨研は鯨肉供給における事実上の独占体なのに、経営がいっこうに安定しないという点が、捕鯨における商業性の欠如を証明している。
鯨研の財務諸表によれば、長期借入金の突出が目立つ。固定負債として計上された21億円である。
資産勘定にはこれをカバーできる項目が乏しく、財務の健全性に懸念を抱かせる。実は鯨研に貸したのは海外漁業協力財団という農水省外郭団体(理事長は水産庁長官OB)で、利子はゼロか極めて低利。実質的意味合いは資本の増強であろう。
08年9月期の鯨研は、7億7800万円強の経常赤字を記録した。納税者のカネから補助金として前年比7割増に当たる9億800万円を得ているが、全く埋め合わせになっていない。
一方鯨研が捕鯨業務を委託する共同船舶の財務は不詳だが、信用調査会社の推定によれば年間の利益は1000万~2000万円程度という。赤字でないにせよ、設備更新需要に耐える収益性があるとは思えない。ちなみに、捕鯨母船は船齢の限界に近づきつつあるとされる。
以上を要約するに、日本の捕鯨は経済・産業的実質に乏しい。悲願とする商業捕鯨再開の可能性はIWCにおいてほぼゼロである。仮に認められたとしても商業性がなきに等しいため、実際の参入者は現れない。
問われる国益のバランス感覚
目下、IWCの共同議長職を日本は米国と分け合っている。IWCが対立一辺倒の場でなく議論できる枠組となるよう、日本は米国とともに称賛に値する努力を続けている。
しかしこれで日本の調査捕鯨に対し豪州などが強い批判をやめるわけでも、IWCで商業捕鯨再開が認められやすくなるわけでもない。