下から内発的に膠着を破るのが困難な場合は、政治が外発的に、トップダウンで状況を動かすのを期待したい。が一般に利害当事者の票田が小さい場合、政治家の大勢はあまり関心を払わぬ中で、「声の大きい少数派」が影響力を奮いやすい。民主主義の逆説だが、この傾向は捕鯨をめぐる政治過程に当てはまる。
似た構図がマスコミにある。捕鯨への一般的無関心を映して普段は何も書かず、国際会議の対立や、日本に対する攻撃といった派手な話だけ記事にしがちだ。政治家も世論もいつしか「熱く」なり、国益をめぐる冷静な検討は省みられない。
日本の主張は確かに「正論」
しかも、次に見る通りなるほど日本の主張は正しいのだから、自ら折れて出るなど軟弱の極みということになる。しかし正論といえども通る見込みがないばかりか友を敵に回す正論なら、再考せねばならない。
日本が続けているのはIWC取り決め第8条に則る科学的調査捕鯨であって、商業捕鯨ではない。
同条によると、加盟国政府は科学調査に目的を限り、捕鯨許可証を特定主体に与えることができる。日本の場合、許可証を得た調査捕鯨の実施主体が農水省所管の財団法人・日本鯨類研究所(鯨研)である。
実際の操業は、共同船舶という会社が鯨研の委託によって手がける。本社は東京都中央区のビルにあり、同じビルに鯨研が同居している。
調査とは鯨を大量に捕って(殺して)なすべしとするのが日本政府の立場である。統計精度を高めるための母集団規模の確保、年齢判定のための耳垢栓採取が必要といった理由による。ただし捕るのは主に個体数が多いミンキー鯨で、目で見てできる調査は目視で済ませてもいる。
1000頭近い数を、こうして捕る。日本に持ち帰り、市場に売る。それでも商業捕鯨ではない。IWC取り決め第8条に従い、調査捕鯨で捕った鯨の有効・非営利利用をしているに過ぎないからである。
科学調査であるからには有効・非営利利用は当然で、この要請は同義反復だが、捨てずに食用に供す点で有効利用、売上金を次年度調査捕鯨費用に充当する点で非営利だとするのが日本政府の立場だ。反対派は日本の拡張解釈を言い、脱法的だと非難するけれど、日本の行為は少なくとも合法である。
税金頼みでは「商業」とは言えぬ
このように、調査捕鯨には違法性がない。不法をなじられるいわれはなく、正義は我にあって妥協の要なしとするのが日本政府従来の見解である。そして鯨の生態につき十分の知見を得たうえは、商業捕鯨を再開すべきだと一貫して主張してきた。
確かに正論だが、通らぬ正論だ。商業捕鯨再開などはIWCの内部力学と、我が国捕鯨実態の両面からして絶望的に不可能である。