フランス南部の世界的な観光地ニースで14日夜起きた“車暴走テロ”は早くから懸念されていたものだ。死者は少なくとも84人に上り、昨年11月のパリの同時多発テロに次ぐ最悪の事態になった。犯行声明は出されていないが、過激派組織「イスラム国」(IS)の“一匹オオカミ”テロの可能性が高く、フランスは非常事態宣言を10月まで延長した。
不気味な指示が現実のものに
フランスでは14日夜、革命記念日を祝う花火やコンサートなどが全土で開催されていた。ニースの犯行現場は、有名な観光地「プロムナード・デ・ザングレ(英国人の遊歩道)」。“天使の入り江”と呼ばれる美しい湾に面し、映画のロケなどによく登場する場所だ。
夜11時ごろ、ここに猛スピードの大型トラックが突っ込み、花火見物の群衆を次々にはね飛ばした。84人が死亡し、約20人が重体。負傷者も50人を超えている。オランド大統領は「フランスはイスラムのテロの脅威にさらされている」と言明。イスラム過激派によるテロとの見方を示し、今月26日に解除する予定だった非常事態宣言を3ヶ月延長することを明らかにした。
フランスはイスラム過激派の活動が活発化するラマダン(断食月)期間中であることもあり、7月10日までの1ヶ月、全土で開催されたサッカーの欧州選手権がISなどのテロに狙われているとして、10万人を超える治安要員を動員して厳戒態勢を取った。選手権が無事終わり、ラマダンも終了したことで、一息ついた矢先の事件だった。
トラックを運転していた男は警官隊に射殺されたが、男が車外に出て銃を乱射したとの目撃証言もある。トラックからは銃器と大量の爆発物が見つかっており、周到に準備したテロであったことはほぼ間違いないだろう。トラックの運転席からフランスとチュニジアの二重国籍の男の身分証が見つかった。ニース在住の31歳の男だという。
今回の事件では、犯行声明などはまだ出されていない。しかし車によるISのテロはフランス治安当局が懸念していたものだった。というのも、ISの海外テロ作戦の元締めであり、組織の公式スポークスマンのムハマド・アドナニはこれまで、どこででも、どんな方法を使ってもいいからテロを起こせ、と世界中の支持者らに要求。
具体的な手段として「車や刃物、そして棒や石ころ、毒」などを使うよう指示、欧州の治安関係者は銃や爆弾などと同時に、車を凶器に使ったテロが起きるのではないかと懸念していた。その懸念が今回、現実のものになった。
テロ専門家らによると、犯人の男が過激派として当局マークされていたかどうかにかかわらず、ニースの事件はISのこうした「地元でテロを起こせ」という指示に呼応したホーム・グロウン(母国育ち)のローン・ウルフ(一匹オオカミ)型テロと見ている。