日本人7人が殺害されたバングラデシュ・ダッカのテロ事件の余波が冷めやらぬ中、過激派組織「イスラム国」(IS)が新たなテロを予告する映像をネット上に掲載、その後、東部で銃撃事件が起きるなど同国の緊張が続いている。その中で焦点であるテロ事件の背後関係が次第に浮かび上がってきた。
JMB、ミャンマー国境で軍事訓練か
今回の事件は実行犯の若者(死者5人)だけで実行できる内容ではなかった。周到に準備された襲撃方法、武器、爆弾の調達など背後に支援組織がなければこれほどうまく運ばなかったろう。
しかも、犯人らは日本人ら人質を取って立てこもっている際、電話で外部からの指示を受けていたことが濃厚な上、現場から外部との連絡用に使われたと見られる無線器を押収されており、背後に襲撃を操っていた人物や組織があることは間違いない。
ISが犯行声明を出しているものの、国際テロの専門家によると、実際に黒幕として作戦を仕切ったのは、地元のIS系の過激派「ジャマトウル・ムジャヒディン・バングラデシュ」(JMB)である可能性が強い。警察当局は現在、JMBのメンバーである6人が関与したと見て行方を追跡している。
JMBとはいかなる組織なのか。JMBはバングラデシュでイスラム革命を起こし、イスラム原理主義国家を樹立することを目標にする過激派組織だ。目標はISと類似している。同組織は1998年、アフガニスタンに侵攻したソ連軍と戦ったムジャヒディン(イスラム戦士)たちが帰国後に創設した。
機密情報公開サイトのウイキリークスが公表した公電類によると、JMBはイスラム系の野党「バングラデシュ民族主義党」の依頼を受けて左派の政治家らを暗殺するため殺し屋を送り込み、外国人らも殺害した。
外国人の中には、2015年10月に北部で射殺された星邦男さんや、今回のテロ現場から近い場所で殺されたイタリア人も含まれている。ISは星さん殺害で犯行声明を出しているが、当局によると、星さん殺害容疑で、ダッカ事件の実行犯の1人が指名手配されていたことを明らかにしている。
バングラデシュ政府はJMBのアジトから大量の爆発物が発見されたことなどから2005年、同組織を非合法化した。JMBは昨年からISへ傾斜。ISの機関誌ダビクはJMBについて「新しい希望の光が生まれた」と評価、事実上、その傘下に収めていると見られている。
各国の過激派は自分たちの存在を大きく見せようとして流行のISブランドを利用し、ISもその影響力を誇示するため、実際は後知恵であっても、ISの指示ですべてが計画、実行されたように装うケースが多い。JMBとISも当初はこうした関係でスタートしたようだ。
テロ専門家らによると、今回のテロの構図はJMBが実行犯の若者と接触して過激思想を吹き込み、失踪させた後、ミャンマー国境付近の山岳地帯に連れて行き、そこで銃や爆弾の扱いなどを軍事訓練。「聖なるラマダン(断食月)に地元でテロを起こせ」というISの海外作戦責任者モハメド・アドナニの呼び掛けに呼応する形でテロを実行したのではないかと見ている。
同国にはアルカイダ系の「アンサルラ・バングラ・チーム」という過激派組織もあり、イスラム主義者の政治家を激しく非難した著名なブロガーらを殺害してきたが、外国人を殺害する手口などから、今回のダッカ事件には関与していない、というのが当局の見方だ。