科学で斬るスポーツ

2016年7月22日

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データ分析で五輪切符を手中に

Photodisc

 このような視点はおそらく昔からもあったろうが、「どうやらこの選手はレシーブが弱い。そこを狙え」などと勘に頼っていた。それを科学的なデータに基づき、対処できるようになったのがIT時代のバレーボールのスタイルだ。

 この分析で特に重要なのは、セッターがどの位置にいたときに成功率、失敗率が高いか、低いかの数字だ。

 そうした分析が生きたのは、今年5月18日のバレーボール・リオ五輪女子世界最終予選のタイ戦と言われる。五輪出場のためにも格下のタイ戦はどうしても取りこぼしはしたくなかった。しかし、日本は前日の韓国戦の敗北が尾を引き、波に乗れなかった。試合は15点先取の最終第5セット(他のセットは25点先取)までもつれ込んだ。

 こうした短期の試合では、だれからサーブを始めるかが重要になってくる。サーブの得意な選手で得点を稼ぎたいからだ。この試合で最もサーブが好調だったのは、若きセッターの宮下遥(21)選手。宮下選手をどこに持ってくるのか、アナリストの渡辺さんと、真鍋監督が選んだのは、最後にサーブが回る①(図2)。タイがサーブ権をとったので、日本にサーブ権が来たとき宮下選手は⑤に移動。最後にサーブが回ってくる。

 「ゲームの山は中盤以降。そこでサーブが得意の宮下をそこで出し、流れをつかんで突き放す」

五輪でさらなる活躍が期待される渡辺さん

 2人が4セットまでのデータに基づきだした結論だ。宮下にサーブがまわってきたのは、6対12の敗色濃厚の局面。しかし、宮下は期待通りの活躍を見せた。宮下のサーブは狙いすましたゾーンに決まり、相手陣営をかき乱した。あせるタイ選手は遅延行為などのミスを重ねる。連続8点を奪い、逆にマッチポイントを先につかんだ。「数十年に一度の逆転劇」(真鍋監督)によって勝利を収めると、その後も勢いは劣えず結果的に3位で代表切符を手にした。

 リオ五輪で、渡辺の頭にあるのは、他の国もやらない高度な分析だ。「こちらも進化しないとやられてしまう」。データサイエンスの進化が勝利のカギを握る。

柔道もデータで、金ゼロ返上へ

 こうしたスポーツアナリストは、卓球、水泳、フェンシングでも成果を上げる。

 卓球の分析を担うのは池袋晴彦さん(33)だ。5年前から日本代表の海外遠征にほとんど同行し、1大会100試合、年間1000試合の撮影をし、分析に役立てる。この相手対策研究の良し悪しが勝敗を左右するといっても過言ではない。

 日本代表男子エースの水谷隼選手(27)は少なくとも25種類のサーブを繰り出す。相手の裏をかき、相手のリターンを崩すことが不可欠となる。というのも、池袋さんらの分析で、サービスから3打目で得点が決まるのが多いからだ。逆に言えば、レシーブ時には、3打目で決めれないようにすることが大事だ。「各大会で蓄積したデータをもとに、この選手はどのくらいの確率でチキータレシーブ(ボールに横回転がかけられ、バナナように曲がることから命名。チキータはバナナの名前)を返してくるか、3球目の成功率なのか知っているか知らないかはとても重要。試合前のこの情報戦が試合の何割かを決める」と指摘する。

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