日本側からも、これまで明らかにならなかった証言が得られた。丸紅ルートのなかで当時、航空機課長だった人物の証言である。
「田中角栄への5億円は、自分がロッキード社に出させることを提案した。その目的は、全日空にトライスターを買わせるダメ押しと、P3Cにいろいろと力を注ごうというものだった。P3Cの取扱高は巨額で、口銭(手数料)も膨大だからだ」
なぜ軍用機疑惑は解明されなかったのか
ロッキード事件がなぜ、軍用機疑惑の解明まで達しなかったのか、トライスターの導入ということにすり替わった形となったのはなぜか。
コーチャンの証言をとる捜査に携わった検事だった、堀田力は次のようにいう。
「P3Cをめぐってお金を上手に作る手口は証言が取れている。しかし、カネの流れがどうなっているのかは、こちらがやらなければならなかった。それが、深い闇に阻まれた」
ロッキード事件の発覚直後、駐日米国大使のジェームズ・ホッジソンは本国に、事件に関して13回も極秘電を送っている。そのなかで、次のような一節があった。田中内閣の退陣の後を継いだ三木武夫内閣ではない、非公式のルートから、次のような申し出があったというのである。
「三木内閣が米国に求めている(ロッキード社からカネをもらった)高官の名前を明らかにするのは慎重にして欲しい。名前が出れば日本は混乱し制御できなくなる」
ロッキード事件は、ロッキード社というひとつの民間企業の裏の営業行為にとどまらず、国家間の防衛、同盟関係にまで及ぶ力学が働いていた。
再放送は必見であり、書籍化を期待したい。
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