ワシントン・インサイド情報を伝える真打(しんうち)の登場だ。当面、毎月1本寄稿していただく。今回は記念すべき第1回。
その昔、貿易摩擦が深刻だった頃、日本企業はワシントンの動きを何でも知りたがった。ホワイトハウスから漏れ聞こえる噂、キャピトルヒル(議会)の体温や血圧…。
求めに応じてネルソン氏が始めた会員限定ニューズレター「ネルソン・リポート」は、その後も延々と、来る日も来る日も続いて今日に及ぶ。
米国時間の夜配信され、日本の朝届く。これを読んで1日を始めるのが、霞ヶ関や丸の内のプロとセミプロ、その他もろもろ、米国ウォッチャーの日課になって久しい。外務省に行くと、リポートが分厚いファイルに綴じこまれて棚に鎮座している。
近年、日米関係が摩擦の二文字で語られなくなると、リポートは漁場を求めてぐっと関心を中国、韓国へ移した。読者はそのせいで今やワールドワイドに広がる。そこからのフィードバックが、クリス・ネルソンの興味と好奇心に厭きというものを与えない。
話すように書く、速射砲的スピード感に満ちた独特のリズム。まるでワシントンに居るような気分に浸らせてくれる。日米関係の生き字引、ベテラン中のベテランが書く「ワシントンDC・いまの空気」――。ご堪能のほどを。
え、セーターをほどいてしまうの?
昔から、セーターのほつれた糸を引っ張ることに注意を促す古い言い回しがある。「気をつけてやらないと、セーターを全部ほどいてしまう羽目になるぞ!」というものだ。
今、多くの専門家の間で、この金言はともすれば、日米戦略同盟全体の行方に対する警鐘ではないかという懸念が高まっている。彼らが心配し始めているのは、日米双方がトラブルは望んでいないと言いながら、日本の民主党政権が沖縄・普天間基地移設に関する合意という「ほつれた糸を引っ張る」決断を下したために、日米同盟が破綻してしまう危険があるということだ。
少なくとも米国側について言えば、こうした懸念の根拠となっているのは、2006年に日米両政府が合意した基地移設計画を実行しないという鳩山由紀夫首相の決断が、日米間に生じ得る様々な概念的、戦略的「断絶」を垣間見させる不穏な「窓」なのではないかという意識の高まりだ。
ワシントン、「外圧」は撃ち方止め
それが「悪いニュース」であり、今月の当コラムでは、こうした懸念について掘り下げて見ていく。だが、それより先に「良いニュース」に触れておこう。昨年11月にロバート・ゲーツ米国防長官が来日し、普天間移設計画を早急に承認するよう日本政府に公然と求めた最悪期からすると、2つの重要な進展が見られた。
まず、あれ以来、民主党幹部、中でも鳩山首相と岡田克也外相が米国(とアジア)を安心させるべく、民主党政権としては、特定の問題について意見が合わなくても、アジア地域、そして全世界における日本の地位の礎として日米同盟が円滑に機能することに完全にコミットしていると繰り返し発言してきた。
次に、米国政府関係者――国務省が主体だが、ホワイトハウスの報道官も含めて――はメディアへの発言や議会証言で、全世界に広がる日米関係の幅広さと深さについて語り、国連では、大地震に見舞われたハイチの被災者への救援物資の輸送や、問題が生じた時にしか世間の目にとまることがない数知れない取り組みについて繰り返し説明している。
特に米国政府関係者は最近になって、米国は日本に対し、普天間問題で国防総省が求めることを即刻実施するよう公に圧力をかけることをやめると述べ、また、米国政府は日本の新政権が軌道に乗って根本的な重要問題について熟考するまでには時間がかかることを理解していると話している(今は本当に理解していると言っているところに注意すべきだろう!)。