2024年4月27日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年8月25日

 このオースリンの論説はあまり感心しない論説です。国際常設仲裁裁判所の判決は尊重されるべきであって、そのことを強く主張していくことが重要です。中国が判決を拒否し、強引なことを続ける以上、アジアの緊張が激化するのは当然です。南シナ海は重要な通商路に当たること、中国の「九段線」と歴史的権利の主張は法外に過ぎることに鑑みれば、国際社会はこういう緊張の激化やリスクを冒すに値します。ここはしっかりと対応しておくということでしょう。

中国のサラミ戦術

 アジアの海域の支配をめぐる闘争が先鋭化、戦争の危険が増大するなどと評価し、警鐘を鳴らすのは対中宥和策の提案につながりかねません。航行の自由作戦の際の小競り合いや、中国の埋め立てとその妨害での小競り合いはあるでしょうが、戦争になることはないと思います。まだ中国の海軍は米海軍と互角に戦えるものではありません。今度の中国の国際仲裁裁判の判決拒否を、日本の国際連盟脱退と比較するのも適切とは思えません。

 中国はサラミ戦術で少しずつ攻め込んでくることを得意とします。情勢の悪化を懸念して、少しずつ譲るという対応をすると、ずるずると後退することになります。

 今回の判決を、国際社会は中国の理不尽な「九段線」主張や歴史的権利の主張を、断固として排撃する材料にすべきです。そうすることが、中国に反省をさせ、情勢の健全化に資することになります。中国の李克強首相は、この判決が出た後も、中国の行為は国際法に合致していると安倍総理に述べたと報じられていますが、中国が国際法の内容を決められるかのような前提での発言です。こういう発言を聞くと、ますます中国は牽制しておくべきと考えます。

  
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