米国のシンクタンクAEIのマイケル・オースリンが、7月20日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙で、南シナ海問題に関する国際仲裁裁判所の判決を契機に、関係国が相互に強硬な対応に出て、アジア情勢の緊張が高まり戦争の危険もあると述べています。オースリンの論旨は、次の通りです。
日本の満州事変を想起させる
1933年、日本は満州問題で国際連盟を脱退した。その後、日本は西洋列強と対決し、太平洋戦争につながった。同じことが中国との間で起きるのか。ハーグの仲裁裁判の判断への中国の反応は日本の国際連盟の脱退を想起させる。
2013年、フィリピンが南シナ海問題で訴訟を提起した際、中国は国際仲裁裁判所の管轄権を否定した。これは誤りであった。中国は、国連海洋法条約に従い、土地の所有権に関する訴訟を拒否しうるが、今回の訴訟は海洋権益に関するものであった。判決は、中国が当事者である国連海洋法条約により拘束力がある。
中国はずっと南シナ海での所有物は「島」であり、排他的経済水域、建設などの権利も持つと言ってきた。しかし、裁判所は「岩」または「低潮高地」であるとした。また、裁判所は、中国が主張していた「九段線」内の資源に対する歴史的権利を否定した。判決は法的問題をはっきりさせたが、地政的競争を解決することにはならない。北京は判決を無視するとし、国際社会に反対する姿勢をとっている。中国は、協力ではなく、隣人に脅威を与える政策を強化しかねない。
国際法秩序の正統性が、中国により試練を受けている。北京は「南シナ海での領土主権と海洋権益は影響されない」と言っている。中国はこれからも隣国の漁船にいやがらせをするだろう。さらに北京は南シナ海での建設を決してやめないと言っている。スカボロー岩礁に軍事基地を作るとの決定をしかねない。法を後ろ盾に、中国の隣国はもっと力強く中国を押し返すだろう。海洋での衝突の可能性は劇的に増加する。中国も譲歩していないことを示すために自己主張を強めるだろう。米国は、地域の同盟国・パートナーを支持するように、航行の自由作戦を強化し漁船への嫌がらせを阻止するように、との要求に直面する。
ハーグ判決はアジアの海洋の支配のための闘争を解決しなかった。代わりにそれを悪化させ、戦争の危険を増大させた。
出 典:Michael Auslin ‘China Takes Asia Back to the 1930s’ (Wall Street Journal, July 20, 2016)
http://www.wsj.com/articles/china-takes-asia-back-to-the-1930s-1469032195