2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年1月27日

 しかし、今回のイギリス人死刑執行の一件では、中国政府はこれまでのような「柔軟姿勢」を一転させ、イギリスからのいかなる反発をもはね返して、中国外交の重要な一環であるはずの英中関係の悪化も覚悟の上で死刑執行に踏み切ったのである。

 中国政府もここへ来てようやく「法治」を大事にするようになったのか、とはとても思えないが、この一件はむしろ、中国政府の外交姿勢の重要な変化を示した出来事であると思う。

 今までの柔軟姿勢から一転して、中国政府はもはや、誰に対しても妥協しなくなったようである。

米国の台湾向け武器売却でも妥協しない中国

 そして今年に入ってから、アメリカの台湾向け武器売却への中国政府の対応において、こうした外交姿勢の転換はよりいっそう明確になっている。

 アメリカ合衆国は昨年から、地上配備型迎撃ミサイル(PAC3)を含めた台湾向け武器売却を進めているが、それに対して、中国政府は今年の年明けから、今まで見たことのない強い姿勢での猛反発を始めている。

 1月7日から9日、中国外務省の姜瑜報道官は3回にわたって「強い不満と断固反対」を表明したのに続いて、アメリカ担当の何亜非外務次官も9日、「強い不満と断固反対」を表明したと同時に、「武器売却の即時停止をアメリカに強く求める」との姿勢を示した。

 8日には、中国国防省も反発した。国防省の報道官は外務省と同様、「強い不満と断固反対」を表明したと同時に、「中国側はさらなる措置をとる権利を留保する」とし、昨秋本格的に再開したばかりの軍事交流を停止するなどの報復措置をとることを示唆した。

 このように、アメリカの台湾向け武器売却に対し、1月7日から9日までのわずか3日間で中国側は5回にもわたって猛反発をしているが、米中関係史上、これは極めて異例なことである。

 1979年11月に米中国交樹立の直後に、アメリカはさっそく国内法としての「台湾関係法」を成立させ、武器提供を含めた台湾への防衛協力を法的義務として定めた。それ以来、アメリカは30年間にわたって台湾への武器売却を断続的に行ってきたが、その都度、中国政府は外務省を通じてきわめて形式上の「不満と反対」を表明したものの、基本的に目をつぶってしまうような姿勢をとってきた。だからこそ、台湾へのアメリカの武器提供が堂々と行われ続ける一方、米中関係は何とか維持されて徐々に深まってきた。

 しかし今度、中国は今までとはまったく違った姿勢をとることになった。売却が実際に行われる前からすでに上述のような密度の高い反発を行っているのだから、それはもはや、単に形式上の「抗議」や「反対」ではなくなっている。

対欧米協調外交の訣別

 おそらく中国側は今後、この勢いで反発のトーンをいっそう高めていくし、実際に売却された後には、それまでの強硬姿勢と釣り合うような実質上の「報復措置」を取らざるを得なくなるだろう。実際、昨年の年末頃から、中国国内の御用学者たちはいっせいに、「アメリカに対抗する実質上の報復措置をとるべし」との大合唱を始めている。

 つまり中国は今後、この問題についてのアメリカとの喧嘩を徹底的にやっていく覚悟なのである。


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