しかし、現在のように成長が乏しく、昨日より今日のほうが良いと思えない中では、生活の全てを犠牲にしても割に合わない。その割に合わなさを理解しながらも、なんらかの形で働き続けなければならないわけですから、どう働くかを考えてみましょうよというのが今回の本『男が働かない、いいじゃないか!』のメッセージでもあります。
――私も田中先生と同じくみんながどうしてそこまで会社にコミットするのか理解に苦しむ時があります。「普通であることが大人になること」と言う人もいますし。どうして未だにモーレツ社員のような働き方に意義を申し立てないのでしょうか?
田中:「普通の道に進むことが大人になること」程度の理屈で納得することを僕は理解できませんし、未だに会社勤めの拘束時間の長さは耐え難いと感じる。
ただ、現在の若い人たちの親の多くがサラリーマンで、その他の生き方のロールモデルを見たことがないんだと思います。ということは、僕らのような40歳前後の世代が新しい生き方をつくっていかないといけないと思いますね。手本がないから出来ないではなく、生き方が決まっていなから自分で決めていく楽しさを感じて欲しい。
現在は、男性がいくら働いたところで家族全員が食べられなくなってきているわけですから、共働きをすることや、結婚はせずにひとりで暮らしていくのも有力な選択肢になっていくと思います。
――生涯未婚率(50歳時点で一度も結婚したことがない人の比率)の問題が、ここ数年取り上げられることが多いですが、必ずしも結婚しなくてはいけないわけではないですからね。
田中:2010年の生涯未婚率が男性で20.1%と、およそ5人に1人が生涯未婚という状況ですから。
――日本の長時間労働についてはうつ病のリスクや自殺率の高さ、生産性の問題と様々な問題を孕んでいると指摘されています。
田中:生産性が低いという議論はあまり意味をなしていないと思っています。それよりも長時間労働が単に習慣化しているから、つまりはみんなが長時間働いているからそうなってしまっているだけだと思います。
自殺については、長時間労働も一因としてはあると思いますが、男性的な特徴を考えると人に悩みを打ち明けるのが苦手なことも大きいのかなと思います。自殺するまで追い詰められる前に、悩みを吐露したり、人に言葉をかけてもらったり踏みとどまる要素がないのが問題。『<40男>はなぜ嫌われるか』に書きましたが、中年男性は悩みを吐露したりする友達がいないんです。