思春期
私たちはベンチを離れ、庭園の東南の隅にある水上バスの発着所へと向かった。
「クラブでは将棋部に入ったんだって?」
「うん」
「じゃあ、家に帰ったらジイちゃんと一局やろう。新しい将棋盤があるんだ」
笑顔を見せて頷いたAは、背丈こそ私の妻と同じくらい高くなっていたが、表情は昨年と同様に幼い。「思春期」という言葉はまだ似つかわしくないのでは、と思った。
祖父と2人きりの初の東京見物。寿司と抹茶と将棋が好きな、かなり和風な新中学生は、この日の体験のどれを覚えているだろう、そう思いながら私はAと船に乗り込んだ。
いつの間にか私は、亡くなった義母よりもずっと年齢が上になっていた。
※9月1日、東京都の小池百合子知事は、築地市場の11月7日の豊洲移転を、土壌汚染への懸念などから、延期すると発表した。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。