また食べてはいけますが、収入が著しく不安定だと子供の学費や病気や事故に遭った時の治療費などをコツコツと貯めることができません。稼ぎが少ないから貯まらないわけではなく、零細自営業者たちは売上の多い日と少ない日の落差が激しいことが貯蓄を難しくしている原因だと思います。タンザニアでも民間企業に務めている会社員は、給与そのものは零細自営業とさして変わらなくても、月に1度決まった額がもらえるので貯蓄のある人も多いです。
ブクワとハディジャのように多業種を即応的な技能で渡り歩く生き方はインフォーマルセクターの研究では広く指摘されてきました。それは「1つの仕事で失敗しても、何かで食いつなぐ」という生計多様化戦略です。
――小川先生は1枚も売れない日はどうやって過ごしていたんですか?
小川:最初は日本人的な価値観で暮らすので暇をしていることに罪悪感を覚えるのです。だからお客さんが来ない時は、問題のある古着の修繕加工をしたり、シャツの裏に付いているボタンを切り離して「ボタン売り」を始めたりと、とにかく少しでも儲けるための内職をしていました。
しかし、あくせくする私を横目で見ながら、彼らはトランプやおしゃべりをしている。私がもっとお客さんが多いところへ移動して少しでも売ろうよと言っても、「そういうところは競争が激しいから、今日はここでいいよ」と返答されます。また、私は調査をしていたこともあり、売り上げを記録してどこの場所でどんな商品が売れるかを分析しては、あそこに行ったのは失敗だった、あれを仕入れたのは失敗だったと後悔したり、これで大丈夫なのかといちいち不安になったりするのですが、彼らは「ムベレ・クワ・ムベレ(前へ前へ)」といって過ぎたことを過度に後悔したり、先のことを心配しても仕方がないと笑います。
ただ、彼らは決して怠け者ではなく、「今だ!」という機会には素早く動くし、その結果、「キター!!」となったら猛烈に働くので、動く必要のないときに動かないだけなのです。
――そもそもなんですが、タンザニアはどういう国なのでしょうか?
小川:日本ではキリマンジャロコーヒーや世界遺産のセレンゲティ国立公園やンゴロンゴロ保全地域、あるいはマサイ族のイメージがあるかもしれませんね。農業国で、主要な換金作物にコーヒーや綿花などがあります。
――日本とは食べ物がかなり違う印象があります。
小川:アフリカで調査をしていると話すとよく聞かれるのですが、トマトと塩と油の味つけで普通においしいです。それに食生活は慣れです。例えば、セネーネというバッタ(の腹の部分)を唐揚げにしたものがあり、たくさん捕れる時期になるとバーにも売りに来ます。これが小エビの唐揚げのようでおいしいんです。