2024年7月16日(火)

山師の手帳~“いちびり”が日本を救う~

2016年10月27日

識字率99.8%

 そして、そうした諦めない強さを下支えしているのが「ベトナムの教育」である。とにかく教育熱心であり識字率も高い。国連の調査でも特に若年層(15~24歳)の識字率は99.8%に達して東南アジア諸国でもトップクラスである。

 学ぶことに対する貪欲さは文化の受け入れ方にも表れる。他国の文化であっても、学ぶべき価値があれば真剣に学んで取り入れることを厭わない。古い価値観にとらわれず、常に時代に合った新たな価値観を持てるところもベトナムの強みだろう。

 諦めないことと、古い価値観に拘泥しないことは矛盾するように思えるが、それを成り立たせているのはベトナム人の柔軟性である。米国にはベトナム戦争で痛めつけられた。その憎しみは普通であれば消えることはない。

 だが、それをあえて「消せる」のがベトナム人なのだという。南にいくほど、その傾向が強い。北ベトナム人は生真面目で、米国にも何某かの思いがあるが中国に対する恨みに比べれば大したことはない。歴史が違う。ただし、こと商売となると、北ベトナム人も経済合理性があれば、そのことを消すことができるのだ。

あえて異質と組んで中国に立ち向かう

 ベトナムが考えているこれからの中国や世界との付き合い方、戦い方は一国主義ではない。ベトナム対どこかの国ではなくASEANで一緒に戦える相手と組んで中国にも出向いていくというものだ。

 日本と中国の関係においても同じである。二国間だけであれこれ話をするよりも、ASEANの第三国を入れて新しい価値観を入れた上で中国と向き合えばいいとベトナムは教えてくれている。

 一対一で中国と日本が喧嘩している限り、漁夫の利で他国が利益を得ることがあっても、お互いに当事者間では無益なのである。彼らの指南する戦い方では、日本が先にベトナムと手を組んでおく。日本が前面に出るのではなく、ベトナムの強みを利用して日本は後ろ側で利益を得るような仕組みをつくっておけばいい。

 日本人のやり方は違うのだという内向き思考では、今後ますますベトナムとの差が開いていきかねない。内向き志向は「お察し文化」である。同じ思考、同じバックグラウンドを持った仲間で集まって、さしたる反対意見もトラブルもなくものごとが進むことに慣れてしまうと外に出るのが億劫になる。

 これでは21世紀に入って日本は精神的鎖国をしていると言われても仕方ない。それでうまくいくのならいいが、世界と対峙することなくやっていくのは非現実的だろう。

 極論すれば、対中国の問題も、日本が内向き志向だから「問題」として振り回されるだけで、異質と組んで多様性のある見方、考え方、行動をすれば何も問題ではなくもっと有意義なことに時間もお金も使えるわけである。

 だが、特に日本の大手企業は、まだまだ内向き志向から脱し切れていないことが多い。誰も責任は取りたくないし取れない仕組みになっているために、異質=リスクと見なして排除している。

 事態を打開するようなアイデアも、当たり障りのない範囲の常識的なものしか出てこず、さまざまな決定権者の面子に配慮した妥協の産物が生まれる。そこでは誰の責任も問われないような薄い戦略が淡々と実行され、うまくいっても大した利益にはならず、うまくいかなくても問題にもならないのである。

 日本と中国を取り巻く真の問題は、中国にあるのではなく日本がこの状態から一刻も早く脱することができるかどうかにあるのではないだろうか。


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