友人が教えてくれたベトナムの強さの秘密
元来ベトナム人は頭の回転が良く賢い人間が多い。もう10年以上もお付き合いをしているベトナム人のアンさんとは、業界は少し違うが、気が合うので今でもベトナムに来ると連絡を取っている友人である。アンさんは現在では会社経営を行っている成功者だが、彼の生い立ちはベトナム戦争下に育ち半端でない数々の経験をした。
アンさんはベトナム北部のハイフォンで生まれ育ったが、時代は、まさにベトナム戦争の最中でアメリカ軍の標的とされて徹底的な空爆に晒された地域である。子ども時代のアンさんの日々は空爆と共にあった。爆弾が飛んでくると、命が縮みあがるような轟音が辺り一帯に鳴り響くのだが、そんなのは余り怖くないという。彼が言うには、もっと怖いものがある。音も気配も何も感じさせずに、スーっと突然、近くに落ちて爆発するミサイルのほうが何百倍も怖いというのだ。
ドップラー効果で真正面から向かってくるミサイルの衝撃波は真空に近い状態をつくり出すので音が吸い込まれる。そのために音もなくミサイルが向かってくるという。こうした話はアンさんに限らず、ベトナム人なら多くの人がリアルに持っている原体験である。まさに戦火をくぐり抜けてきたベトナム人は平和ボケした日本人にはない感覚の持ち主だと言えるだろう。
アンさんは頭の良いインテリであるが、昔は大変苦労をしたようだ。旧ソ連の崩壊の後、ドイモイによる経済システムの刷新の時には、得意の語学(彼は英語、中国語、ロシア語も話せる)を生かして中国やロシアとの間で運び屋をやりながら事業を大きくさせていった。
当時は敵を騙して、したたかに生きることぐらい、命が奪われることに比べれば何ということはなかったのである。
では、実際に彼らベトナム人は、どのように中国に負けない自らの強さを自覚しているのだろうか。アンさん曰く、ベトナム人とは「絶対に諦めない民族」だという。中国との長きに渡る戦いの歴史はもちろん、ベトナム戦争、フランス、ロシア、日本など、いずれの国と戦ったときも、自分たちは独立民族であるという気概を忘れたことはなかった。
諦めないというのは、表面上だけのものではない。一見、諦めたかのように見えても、したたかに自らの存在を随所で出していくのがベトナム人の強みなのである。だからといって、決して陰険な民族ではないということもアンさんは強調していた。