味覚評価の世界的潮流にマッチ
ワインの世界的銘醸地であるフランスのボルドー地方は、メドック地区だけでもジロンド川左岸に沿った瓦礫質土壌の河岸段丘が地平線まで続く。もう一方の雄、ブルゴーニュ地方は、南北20キロに延びるコートドール(黄金の丘)の、石灰質からなるなだらかな斜面にロマネコンティ、モンラッシェなどの畑が延々と続く。
ニューワールドの大御所、カリフォルニアのナパバレーは、サンフランシスコの北側の太平洋から吹き上げる冷涼な風の恵みを受けて、幾重にも連なるブドウ畑が海に向かって降りて行く。これら至高のテロワールで育まれた世界的銘醸地と、甲府盆地の縁にワイナリーが密集する勝沼を比較するのは酷ではある。
しかし、狭い国土の日本で生産される農産物の品質の高さが、やる気のある生産者の永い努力で、世界市場で注目されている。これと同様に日本固有の甲州種で造るワインも、世界の銘醸ワインと競うのではなく、日本独特の丹精なブドウ栽培と繊細な醸造技術が相まって、「オンリーワン」の輝きを放つ品質を提供できれば、道が開かれる。ワインコンクールで年々評価が高まり、今年はプレミア賞に輝いたのは、そのテイストが審査員の味覚を捉えたからだろう。
都内のワイン教室で講師を務めるシニアワインアドバイザリー、矢澤幸治氏は「90年代から200年代まで、ワインの評価基準は、バニラ香やコーヒーテイストなど強い樽香や重さをよしとする米国主導型で、バーベキューにも負けない力強さと複雑さが好まれました。しかし現在では、世界の潮流がピュアな果実味を評価する英国主導型に移りつつあるようです」という。時代の変遷を反映しているのだろうか。その潮流が、甲州ワインに絶好のタイミングで追い風となったのは明かだ。甲州種ワイン固有の透明感のあるテイストとピュアな味覚を求める世界の潮流がぴったりマッチしたのが、今回の受賞につながったとすれば、「ワインの神の見えざる手」が働いたといえるかもしれない。
10月から11月にかけて勝沼町は、いたるところで様々なワイン祭りが開催され、大勢のワインファンでにぎわっている。ロンドン・コンクールでの栄冠が、今年の祭りに花を添えたのは言うまでもない。
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