2024年11月22日(金)

ACADEMIC ANIMAL 知的探求者たち

2010年3月19日

 それで、遠隔操作型のロボットを作ることにしました。自然な動きはそれまでの技術で組み込み、操作者がインターネットを介して話す。コンピュータが唇や頭の動きを自動認識して声とともに送ると、アンドロイドの唇が同期して動く。操作者はアンドロイドを見るモニタと訪問者を見るモニタの両方を見てしゃべる。これで操作者も訪問者も、アンドロイドを私だと思うようになります。

(c)ATR知能ロボティクス研究所

●「サロゲート」の冒頭にも登場する、先生そっくりのアンドロイドですね。

――「双子のようなもの」という意味で「ジェミノイド」と名付けました。学生が私の癖や仕草を正確に再現したんですが、驚いたのは、私にはそれが自分の癖だとは思えなかったこと。自分の声を録音して聞くとへんな感じがするのと同じです。ふだん意識して見ていない自分の癖は、見ても自分のものだとは思えない。自分は自分のことを他人ほどは知らない、ということです。

 ジェミノイドの顔にセンサーはついてないんですが、顔を訪問者に触られると、操作者は触られた感覚を持ちます。頬をつつかれると、すごく屈辱的な感じがする。本当に誰かが触っている感覚がある。これは私だけでなく他の操作者もそう感じます。タレントの知花くららさんにも試してもらいましたが、私がジェミノイドを触ると、「すごいドキドキする!」と言ってましたよ。

●先生の姿形をしたジェミノイドに他の人も乗り移れる、と。

ジェミノイドの操作風景 (c)ATR知能ロボティクス研究所

――なんでかというと、自分は自分のことを他人ほど知らないから。ロボットが動作をすべて正確に再現する必要はなくて、唇の動きしか同期していなくても自分の体だと認識できる。一部の動き(唇の動き)がちゃんとつながっていると、その体を自分の体だと錯覚する。脳と体は密にはつながっておらず、脳は予測のもとに活動しているんです。

 ゆえに、ジェミノイドを使えば、インターネットを通して遠隔地で存在できることになります。たとえば、奈良の研究所にいるジェミノイドを私が大阪から操作すると、学生たちはジェミノイドに私の権威を感じる。ジェミノイドをカフェにおきっぱなしにする実験では、半分ぐらいの客は気づきませんでした。残り半分は気づきましたが、いったんジェミノイドと話し始めると普通に接するようになった。いつも一人でご飯を食べて淋しかった人が、ジェミノイドと一緒にご飯を食べたら淋しくなかったそうです。また、「ジェミノイドと恋愛できるか?」と聞いたら、できるという人がほとんどでした。

●恋愛もですか。にわかには信じられませんが・・・。

――まあ、誰のジェミノイドかによるでしょうけどね。私は、ジェミノイドが携帯電話に続く新しいメディアになると思っています。電話は場所と場所を越えて人をつなぎ、携帯電話は場所と時間を越えて人をつなぎましたが、ジェミノイドは人間の存在を遠隔地に送る新しいメディアになります。


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