本来、世界から「クールだ」と思われるものであれば、市場原理で民間企業が投資してビジネスとして攻め込んでいく。それをしないのは、そもそも儲からない可能性が高いからである。クールジャパンで投資されている事案のどれだけが利益を生み出しているのだろうか。これまで見てきた「クールジャパン」事業は、予算拠出の根拠も矛盾に溢れ、事業性は陳腐である。
必要な本質的見直し、「何でもあり」はもうやめよう
一方で、本来の日本が持つ地域の歴史や文化を活かした民間主導の取り組みとして注目を集めている宿「里山十帖」がある。越後湯沢からローカル線に乗り換え、10分ほど電車に揺られ、車でさらに山間へ移動してたどり着ける宿だ。
木造建築をリノベーションした母屋、自然を感じさせる露天風呂、そして食事として出てくるものは、江戸時代に栄えた地元の醸造技術や地野菜などを活用した決して贅沢ではないが、たしかにこの地域の歴史、文化を感じるもの。宿に揃う家具やアメニティなどはすべて、この宿の経営者であり『自遊人』という雑誌の経営者でもある岩佐十良氏が、日本各地から集めたこだわりの品々である。客単価4万~5万円にも関わらず、稼働率は90%を超え、私が今年4月に訪ねたときも台湾など海外から多数のお客様が訪れ、満室で賑わっていた。
しかし、岩佐氏によると、この事業は、当初は破綻すると銀行から言い渡される中、様々な協力に支えられての船出だったという。先のような補助金依存で、成果もまともに示さない事業と比較するのも恥ずかしくなるような挑戦である。
こういった事例こそ、本当に日本が各地域に潜むコンテンツ力を活かした適正で挑戦的なビジネスとしてのクールジャパンなのではないだろうか。
どこの地域もクールジャパンといえば忍者だアニメだといい、挙げ句の果てには無線LANやTPP対策までもがその範囲に入るような、なんでもかんでも「クールジャパン」の昨今。今一度、本質的な見直しが必要なのではないだろうか。
地方における儲からない自称クールジャパン事業に税金を突っ込んでも、クールにはならない。むしろ地方経済がさらに冷え込むだけだろう。
■特集「クールジャパンの不都合な真実」
【PART1】設立から5年経過も成果なし 官製映画会社の"惨状"
【PART2】チグハグな投資戦略 業界が求める支援の"最適化"
【PART3】これでいいのかクールジャパン 不可解な投資、疲弊する現場
【PART4】「クールジャパン」×「地方創生」 危険なマジックワードの掛け算
【PART5】覚悟のない産地への支援は「伝統工芸」を滅ぼす
【PART6】「Superdry極度乾燥(しなさい)」が世界中で大ウケするワケ
【PART7】最優先の国家プロジェクトはクリエイターの救済と海賊版対策
【Column】すしの築地、アニメの秋葉原 「聖地」で学びたい外国人が殺到
【Interview】リオ五輪閉会式演出の立役者 MIKIKO
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