Wedge REPORT

2010年3月24日

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 実際、2月の米新車販売はトヨタが前年同月比8・7%減と4年7カ月ぶりの低水準に陥る一方、GMは同12%増、米フォード・モーターも43%増と躍進した。因果関係はともあれ、UAWや、トヨタ車からの乗り換え優遇に動いている米自動車大手には追い風が吹いている。

 この20年で築いた日米関係の変化を指摘する関係者もいる。「今や米側はフリーハンド。これが怖い」。国内のある自動車大手首脳はこんな懸念を漏らす。GMとはトヨタ、スズキが昨年相次ぎ合弁関係を解消。フォードとマツダも関係を薄めており、日本側への圧力を弱める「安全弁」は事実上なくなった。日米で誕生した民主党政権で外交関係がぎくしゃくしていることもあり、情報収集能力の低下を指摘する声もある。

自動車業界を超えた
米国勢の巻き返し

 では、今後日本の自動車メーカーへの影響はどうなるのだろうか。

 1つは販売面での影響だ。肝心のトヨタの米国販売は「信頼回復まで1年はかかる」との見方が一般的。公聴会や連邦大陪審の調査は半年程度続きそうで、そのたびに品質問題の報道が続くからだ。金融危機で減ったとはいえ米国はなお稼ぎ頭。09年に177万台だったトヨタの米新車販売は今年150万台を割り込む可能性が高い。

 その先に影響が考えられるのが次世代エコカーでの主導権争いだ。

 「我々のハイブリッド車(HV)に使われるバッテリーのほとんどは日本企業か、アジアで生産されている」。オバマ大統領は1月上旬の演説でこう語り、環境技術で米国をリーダーにしたいと巻き返しを宣言した。HVでトヨタに先行を許した米国勢は、電気自動車(EV)や外部から充電可能なプラグインハイブリッド車(PHV)を照準に据える。中でも次世代電池の開発は急務だ。米デュポンやA123など素材から組み立てまで巻き込み、官民を挙げて電池開発で追撃する態勢を取る。

 韓国勢とタッグを組む動きもある。現代、LGの韓国2グループが電池の合弁会社を設立。LG化学とはすでにGMが次世代電池開発で提携済みで、日本車の追い上げという「利害」が一致すれば、EVやPHVで強力なライバルに浮上しかねない。

 あなどれないのが標準化争いの行方だ。EVなど次世代エコカーは充電インフラの普及が必要で、世界的に販売するには充電方式や安全規格の標準化が不可欠。すでにドイツが充電方式の標準化で日本を牽制する動きを見せる。日本勢も3月15日、東京電力やトヨタ、日産などが中心となり「チャデモ協議会」という充電インフラの設置、標準化を進める団体を発足させた。だが、もともと「技術の世界標準作りは日本が最も苦手な分野」(自動車関係者)。

 しかも、EVが電力の次世代送電網(スマートグリッド)の一部に組み込まれれば、もはや車は一端末と化し、全体を制御するITシステムが主導権を握る可能性すらある。その本命はITや電力関連の巨人、米IBMと米GE(ゼネラル・エレクトリック)。両社が次世代エコカーを使ったスマートグリッド実験に参画するのも、自動車を含む次世代社会インフラの覇権を握るためだ。

 世界一の「TOYOTA」が品質問題でつまづく間に、虎視眈々と産業競争力の復権をもくろむ─。今回の問題の底流にある米国の思惑を単なる「読み筋」と受け流すことも可能だ。だが、100年に1度の金融危機で、永続すると信じた「常識」が一瞬で崩壊したのも事実。保護主義という新たな変数を軽視すると、10年後の日本車の産業競争力は大きく損なわれかねない。

◆ 「WEDGE」2010年4月号




 

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