選挙キャンペーンをはじめるなりトランプ氏は、メキシコ人を侮辱するなど過激な暴言を繰り返してきた。だが中でも批判が高まったのは、選挙運動中に身体障害者の物真似をしてあざ笑ったり、過去のテレビインタビューでどんな女性でも自分の思いのままにできることを下品に表現した「I grab women by the pussy」(オンナはアソコを掴んでやればいい)発言などで、彼の人格が真剣に疑問視されてからである。
民主党支持者ばかりか、ジョン・マッケイン、ミット・ロムニー、ブッシュ一家といった共和党の重鎮たちも、次々不支持を表明するという異常事態となったのだ。
だがその一方で、経済不況は全て移民のせいにして「Make America Great Again.(偉大なアメリカを取り戻す)」という彼の扇動的スローガンが労働者階級の白人の支持を得て、誰もがまさかと思ううちに当選してしまった。
4年に一度の大統領選挙のたびに、アメリカ国民は民主党と共和党のまっぷたつに分かれるのはいつものことだった。でも結果が出るとどちらの側もそれなりに受け入れ、時間とともに落ち着くべきところに落ち着いていた。
だが今回ばかりは選挙が終わっても、ニューヨーカーの大多数はトランプ氏を大統領として受け入れられないと感じているようだ。40年間近く暮らしてきたアメリカの生活の中で、今ほどアメリカの国家の分裂を強く感じたことはかつてない。
ヒールキャラは実は演出?
あのヒールキャラは実は演出で、大統領になったら意外とまともではないのかというわずかな望みは、彼の内閣メンバー候補が明らかになるにつれ、ガラガラと崩れ去っていった。よくぞここまで揃えたというほど極右の、白人至上主義、ゲイ人権否定者、アンチ環境保護派たちのオンパレードなのである。
早々にトランプ氏と会談をすませ、「信頼できる指導者と確信」と発言した阿部首相は、果たしてその前日にトランプ支持団体の代表者で、側近の有力候補であるカール・ヒグビー氏がテレビインタビューでトランプの強硬な移民政策を肯定し、「(太平洋戦争時の)日系人強制収容所の前例もあることだし」と発言をしたことを知っていたのだろうか。