自分自身のコピーロボ「ジェミノイド」を作った石黒浩・大阪大学教授は、2010年4月3日、ついに市販モデル「ジェミノイドF」(1体1000万円)を発表した(毎日.jpの記事はこちら。ATR知能ロボティクス研究所との共同開発で、製造販売はココロが担当)。ロボット研究を通じて「人間とは何か」を追究し、「ケータイの先には、ロボットを通じた新しいコミュニケーションの時代がやってくる」と断言する石黒氏は、科学者でもあり、哲学者でもある。
(c)ATR知能ロボティクス研究所
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高井ジロル(以下、●印) 先生の略歴を見ると、結構頻繁に大学も部局も移っていますね。
石黒浩(以下「——」) ポリシーとして3年で環境を変えるべきだと思っているんです。それ以上同じところにいたら、ぬるま湯につかる感覚が出てきてしまう。組織に慣れると、自分を追いつめるものがなくなる。私は常に自分を追いつめていたい。追いつめない限り、自分の能力を引き上げるものはないので。たとえば、本が売れなかったら首だと言われてやるのと、売れなくても首にならないよと言われてやるのと、どっちがいい仕事できます?
●うーん、プレッシャーがないほうがいい仕事ができそうですが。
——私は、ぬるま湯につかっているとお尻がむずむずかゆくなってきて、そういう自分にものすごくいらだちというか危機感を覚えてしまいます。そういうことを考えなくてすむのは、プレッシャーがかかって何かにかかりきりになっているときだけです。
●自分を追いつめ続けていて、疲れませんか?
――精神的にはそのほうが安定ですね。要するに、私はゴキブリといっしょになりたくないわけです。なにもせずに、食って寝てクソするだけ。それって人間? 自分が人間じゃないかもしれないと思うことのほうが、疲れることよりはるかに怖いです。人間とは何かがわからなくなればなるほど、人間になろうとするものです。
●たとえば、家族とのんびりする人間らしさもありますよね?
――家族が幸せならそれでいいと思います。でも、私はそれだけではもたない。のんびりしているときでも、ずっとメモ帳を持って考えています。どこか行っても、私はいろいろ考えてしまうので。でも、人間に興味があるので、普段の何気ない遊びの中でも、発見することはいくらでもある。遊びが無駄とは思いません。すべて研究につながるから。だって、人間が相手の研究ですからね。