子どもの存在を認めず、求めすぎていないか
――本書の中では、子どもへ説明するときに「見える化」することが必要と書いてありましたね。
石川:具体的に数字で見せていくことが必要ですね。「スマホは害があるからやめなさい」では「はあ?」です。中高生を対象にした研修会では、子どもたちに実際に計算してもらいます。1日に3時間スマホを使っていたとしたら、1カ月でどのぐらいになる? 1年では? と。そのうえで、「1日3時間のスマホに費やした時間を時給800円で働いたとしたら1年で86万円になるよ」と。そうすると「86万? やばいじゃんこれー!」ってなるんですね。別に本当にバイトで働けって言ってるわけではなくて、考える材料として数字を出すんです。材料があれば彼らには考える力はある。その具体的な材料を与えられずに、ただ抽象的に「午後10時になったらやめなさい」「体に悪いからやめなさい」と言うのではわからないんです。
――その時間を使って英単語を1日に4個覚えれば年間で…という具体例も載っていました。
石川:はい。あとは、スマホ代を誰がいくら支払っているのか明確にする。子どもに「1カ月のスマホ代いくらかかってるか知ってる?」って聞くと本当に軒並み知らないんですよ。親が一括して銀行引き落としにしているから。「家族4人が全員使っていたら月に2~3万円になるはずだよ」って話すと、「3万? やばいじゃん」って気付く。お母さんが時給800円のパートをしていたら何時間分なのかと。ですから、保護者の方には「請求書の紙を毎月取り寄せて、冷蔵庫とかに貼っておいてください」と言っています。
――スマホにハマる子とハマらない子がいるとすると、その差はどこにあると思われますか。
石川:現実世界での役割や責任、居場所がある子っていうのはそれほどのめりこまないと思います。私の取材したケースで母子家庭の男の子がいました。彼はお母さんが仕事で忙しいから夕飯を作っているんですね。「高い食材は買えないんだけど、キャベツと卵炒めて醤油マヨで味付けするとうまいんすよ!」とか話してくれて。自分が作らないと夕飯がないし、お母さんも疲れて帰ってくる。その子もスマホは持っているけれど、やらなきゃいけないことがあるからスマホばかりやってられないと。そういう風に、現実的な力を持っている子はハマらないと思います。
――家庭での役割ではなくても、たとえば部活動とか課外活動とかでも。
石川:現代の子は自尊感情とか自己肯定感を持てない子が多いように思います。少子化で、昔よりも親が子どもにかける期待が大きくて、1人があらゆるものを要求されちゃう。勉強もスポーツもできて性格も良くて女の子にもモテて……って。テストで80点取っても「悪くないけど次は90点ね」って、いつまで経っても本当の意味で認められない。